


遺産が9,000万円あるとき、相続税は相続人の数と財産の中身によって0円から1,320万円まで変わります。
0円にする道は3つあり、相続人の人数、自宅の土地が財産に占める割合、そして生前対策をどこまで積むかで決まります。
まず人数の境界は10人です。基礎控除がちょうど9,000万円になって遺産額と一致するためで、9人だと59万9,400円が残ります。
自宅の境界は財産の58.3%で、小規模宅地等の特例によって評価が8割下がるため、土地が5,250万円以上あれば0円になります。
そして生前対策は、生命保険と養子縁組だけでは159万9,800円が残り、死亡退職金の非課税枠も足して初めて0円に届きます。
この3つを積んで0円にできる遺産の上限は9,400万円で、9,000万円はぎりぎり届く最後の帯です。1億円になると同じ対策でも60万円が残ります。
この記事では3つの境界を先に示したうえで、家族構成別の早見表、計算の4ステップ、財産構成別の4パターン、配偶者への配分、生前対策の4段階、隣の帯との位置関係までを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

遺産9,000万円の相続税は、家族構成によって0円から1,320万円まで変わります。この幅の大きさが9,000万円帯の特徴です。
基礎控除の大きさと、相続税の総額を誰がどれだけ負担するかが、相続人の構成で決まるためです。まず自分がどの構成にあたるのかを確認してください。
遺産9,000万円で相続税がいくらになるかは、次の4つの要素で決まります。相続人の数、配偶者がいるかどうか、相続人が誰か(子か兄弟姉妹か)、そして財産の中身です。
【下限】0円
法定相続人が10人以上いる場合、または配偶者が全額を相続して配偶者の税額軽減を使う場合、あるいは自宅の土地が5,250万円以上あって小規模宅地等の特例が使える場合です。
【標準】480万円
配偶者と子2人という最も多い構成で、財産が現金のみ、特例を使わない場合の相続税の総額です。配偶者が法定相続分を相続すれば、実際に納めるのは240万円になります。
【上限】1,320万円
法定相続人が1人もおらず、遺言で第三者に9,000万円を遺贈する場合です。基礎控除が3,000万円しかなく、さらに相続税額の2割加算が適用されます。
下限と上限の差は1,320万円です。同じ9,000万円の財産でも、誰が相続するかで手元に残る金額が1,320万円変わります。この差の大きさが、9,000万円帯で家族構成の確認が最初の作業になる理由です。
参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算/国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
9,000万円で相続税を0円にする方法は3つあります。それぞれ「どこまでやれば届くか」の境界が違うため、自分の状況でどのルートが現実的かを最初に見極めてください。
| ルート | 0円になる条件 | 現実性 | 解説セクション |
|---|---|---|---|
| ①相続人の数 | 法定相続人が10人以上 | 低い(基礎控除がちょうど9,000万円) | 家族構成別の早見表 |
| ②自宅の土地 | 土地の評価額が5,250万円以上(財産の58.3%以上) | 中(都市部の持ち家なら現実的) | 財産構成別のシミュレーション |
| ③生前対策 | 生命保険2,000万円+死亡退職金2,000万円+養子1人 | 高い(生前に準備できれば確実) | 生前対策で0円にする |
| ④配偶者に全額 | 配偶者が9,000万円全額を相続 | 高いが二次相続で620万円かかる | 配偶者にいくら渡すか |
表の見方:①〜③は相続税そのものが0円になるルートです。④は一次相続だけを見れば0円ですが、配偶者が亡くなったときの二次相続で620万円がかかるため、通算では0円になりません。
重要ポイント:③の生前対策は相続が発生する前でなければ実行できません。すでに相続が発生している場合に使えるのは①②④だけです。
9,000万円の相続税が最も重くなるのはどんなケースかを整理します。相続人が1人だけの場合は基礎控除が小さくなるうえ、相続税の総額をその1人が全額負担するため、税負担が最も重くなります。
| 相続人 | 基礎控除 | 課税遺産総額 | 相続税の総額 | 2割加算 | 納税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 子1人 | 3,600万円 | 5,400万円 | 920万円 | なし | 920万円 |
| 兄弟姉妹1人 | 3,600万円 | 5,400万円 | 920万円 | あり(1.2倍) | 1,104万円 |
| 孫1人(代襲相続でない) | 3,600万円 | 5,400万円 | 920万円 | あり(1.2倍) | 1,104万円 |
| 法定相続人0人(第三者への遺贈) | 3,000万円 | 6,000万円 | 1,100万円 | あり(1.2倍) | 1,320万円 |
表の見方:上の3行はいずれも基礎控除3,600万円で相続税の総額は920万円ですが、2割加算があるかどうかで納税額が184万円変わります。最下行は法定相続人が誰もいないケースで、基礎控除が3,000万円まで下がります。
相続税額の2割加算は、配偶者と一親等の血族(子・父母)以外が財産を取得したときに適用されます。兄弟姉妹や、代襲相続でない孫、そして第三者はすべて対象です。
「9,000万円の相続税は最大920万円」と書かれた資料を見かけますが、これは相続人が子1人の場合の金額です。相続人が兄弟姉妹だけの家庭や、法定相続人がいない状態で遺言によって財産を渡す場合は、それより重くなります。
計算ロジック:法定相続人が0人の場合、基礎控除は3,000万円+600万円×0人=3,000万円です。課税遺産総額6,000万円に税率30%・控除額700万円を適用して1,100万円、これに2割加算を適用して1,320万円になります。
参照元:国税庁 No.4157 相続税額の2割加算/国税庁 No.4155 相続税の税率
9,000万円について「法定相続人の数にかかわらず基礎控除を超えるため必ず申告が必要」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。法定相続人が10人いれば基礎控除はちょうど9,000万円になり、課税される財産は1円も残りません。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 | 課税遺産総額 | 申告の必要性 |
|---|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 5,400万円 | 必要 |
| 3人 | 4,800万円 | 4,200万円 | 必要 |
| 5人 | 6,000万円 | 3,000万円 | 必要 |
| 8人 | 7,800万円 | 1,200万円 | 必要 |
| 9人 | 8,400万円 | 600万円 | 必要 |
| 10人 | 9,000万円 | 0円 | 原則不要 |
| 11人 | 9,600万円 | 0円 | 原則不要 |
表の見方:9人までは課税遺産総額が残るため申告が必要です。10人でちょうど基礎控除が遺産総額と一致し、課税される財産がなくなります。
重要ポイント:9,000万円は「3,000万円+600万円×10人」でちょうど割り切れる金額です。5,000万円や7,000万円のように基礎控除が遺産額を超える形ではなく、10人でぴったり一致するのが9,000万円帯の特徴です。
もちろん法定相続人が10人いる家庭はまれです。ただし相続人が多い家庭にとっては、この境界が申告義務そのものを分ける線になります。子が9人いて基礎控除8,400万円のケースでは課税遺産総額が600万円残り、相続税の総額は59万9,400円です。
相続放棄をした人も法定相続人の数に含めて基礎控除を計算します。実際に財産を受け取らなくても人数は減りません。一方で養子は人数に制限があり、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか算入できません。
基礎控除の計算そのものについては、下記の記事で法定相続人の数え方を含めて詳しく解説しています。

参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算/国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき

ここからは9,000万円の相続税を家族構成別に一覧で示します。配偶者がいるかいないかで納税額は2倍以上変わります。配偶者の税額軽減があるためです。表はいずれも財産が現金・預貯金のみで、小規模宅地等の特例などを使わない前提で計算しています。
配偶者と子がいる場合、法定相続分どおりに分けると配偶者の負担分はすべて配偶者の税額軽減で消えます。そのため実際に納めるのは子の分だけになります。
| 家族構成 | 法定相続人の数 | 基礎控除 | 相続税の総額 | 実際の納税額 | 子1人あたり |
|---|---|---|---|---|---|
| 配偶者+子1人 | 2人 | 4,200万円 | 620万円 | 310万円 | 310万円 |
| 配偶者+子2人 | 3人 | 4,800万円 | 480万円 | 240万円 | 120万円 |
| 配偶者+子3人 | 4人 | 5,400万円 | 400万円 | 199万9,800円 | 66万6,600円 |
| 配偶者+子4人 | 5人 | 6,000万円 | 325万円 | 162万4,800円 | 40万6,200円 |
| 配偶者+父母2人 | 3人 | 4,800万円 | 510万円 | 170万円 | — |
| 配偶者+兄弟姉妹1人 | 2人 | 4,200万円 | 650万円 | 195万円 | — |
| 配偶者のみ | 1人 | 3,600万円 | 920万円 | 0円 | — |
表の見方:「相続税の総額」は相続人全員が負担する合計額です。「実際の納税額」は配偶者が法定相続分を相続して配偶者の税額軽減を適用した後の金額で、子だけが納める額になります。
重要ポイント:配偶者のみが相続人の場合は必ず0円になります。9,000万円は配偶者の税額軽減の枠(1億6,000万円)に収まるためです。
計算ロジック:配偶者と子2人のケースでは、課税遺産総額4,200万円を法定相続分で按分します。配偶者2,100万円は税率15%・控除額50万円で265万円、子は各1,050万円で107万5,000円ずつ、合計480万円です。
税額軽減の反映:配偶者の按分額240万円が配偶者の税額軽減で消えるため、実際に納めるのは子2人分の240万円になります。
配偶者+子3人のケースが199万9,800円という端数になるのは、法定相続分に応ずる取得金額で千円未満を切り捨て、各人の税額で百円未満を切り捨てるためです。
資料によって「200万円」「201万円」と表記が割れるのは、この端数処理の扱いが違うからです。正確な金額は199万9,800円です。
参照元:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減/国税庁 No.4155 相続税の税率
配偶者がいない場合は配偶者の税額軽減が使えないため、相続税の総額をそのまま納めることになります。配偶者がいる場合と比べて負担は2倍以上になります。
| 相続人 | 基礎控除 | 課税遺産総額 | 相続税の総額 | 1人あたり |
|---|---|---|---|---|
| 子1人 | 3,600万円 | 5,400万円 | 920万円 | 920万円 |
| 子2人 | 4,200万円 | 4,800万円 | 620万円 | 310万円 |
| 子3人 | 4,800万円 | 4,200万円 | 480万円 | 160万円 |
| 子4人 | 5,400万円 | 3,600万円 | 360万円 | 90万円 |
| 子5人 | 6,000万円 | 3,000万円 | 300万円 | 60万円 |
| 子6人 | 6,600万円 | 2,400万円 | 240万円 | 40万円 |
| 子7人 | 7,200万円 | 1,800万円 | 179万9,700円 | 25万7,100円 |
| 子8人 | 7,800万円 | 1,200万円 | 120万円 | 15万円 |
| 子9人 | 8,400万円 | 600万円 | 59万9,400円 | 6万6,600円 |
| 子10人 | 9,000万円 | 0円 | 0円 | 0円 |
表の見方:子の人数が増えるほど基礎控除が増え、さらに1人あたりの取得金額が下がって税率も下がるため、相続税の総額は急速に減ります。子1人の920万円と子5人の300万円では3倍以上の差があります。
重要ポイント:子9人では59万9,400円が残り、10人でようやく0円になります。あと1人で申告そのものが不要になる境界です。
計算ロジック:子9人の場合、課税遺産総額600万円を9人で按分すると1人あたり66万6,666円です。千円未満を切り捨てて66万6,000円とし、税率10%を適用して6万6,600円、これを9人分合計して59万9,400円になります。
子の代わりに父母が相続人になる場合、父母2人なら基礎控除4,200万円で相続税の総額は620万円です。兄弟姉妹が相続人になる場合は2割加算があるため、兄弟姉妹1人なら920万円の1.2倍で1,104万円、2人なら620万円の1.2倍で744万円になります。
参照元:国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分/国税庁 No.4157 相続税額の2割加算
配偶者も子も父母も兄弟姉妹もいない場合、法定相続人は0人になります。この状態で遺言によって第三者や法人に財産を渡すと、相続税は9,000万円帯で最も重い1,320万円になります。
法定相続人が0人だと負担が二重に重くなる理由
おひとりさまが遺言で友人や介護してくれた人に財産を渡すケース、あるいは公益法人以外の団体に遺贈するケースがこれにあたります。相続税の総額1,100万円に2割加算を適用して1,320万円となり、遺贈を受けた人が納めます。
重要ポイント:遺贈を受ける人は納税資金も自分で用意する必要があります。9,000万円のうち現金が少なく不動産が中心の場合、1,320万円の納税資金を確保できず売却を迫られることがあります。
なお、国や地方公共団体、特定の公益法人に遺贈する場合は相続税がかからない扱いになります。誰に渡すかによって税額が1,320万円と0円に分かれるため、遺言を作る段階で確認しておくべき論点です。
ここまでの早見表は次の前提で計算しています。自分のケースがこの前提から外れる場合、実際の税額は表と変わります。
【表の前提】
この前提から外れる代表的な条件が4つあります。いずれも税額を大きく動かすため、早見表の数字をそのまま自分の税額と考えないでください。
| 前提から外れる条件 | 税額への影響 |
|---|---|
| 自宅の土地がある | 小規模宅地等の特例で評価が80%下がり、税額が大きく減る(0円になる場合もある) |
| 生命保険金・死亡退職金がある | それぞれ500万円×法定相続人の数までが非課税になり、課税価格が下がる |
| 法定相続分と違う分け方をする | 配偶者の取得額によって納税額が変わる(配偶者が多く取れば一次相続は減る) |
| 相続開始前の贈与がある | 一定期間内の贈与が相続財産に加算され、課税価格が上がる |
重要ポイント:9,000万円という遺産総額そのものが、不動産の評価方法によって変わります。土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価するため、売買価格で9,000万円の財産が相続税の計算上は7,000万円前後になることもあります。
相続税の計算方法そのものを確認したい場合は、下記の記事で全体の流れを解説しています。

参照元:国税庁 No.4102 相続税がかかる場合/国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務

9,000万円の相続税は4つのステップで計算します。この順序を間違えると税額が変わってしまうため、流れを正確に押さえてください。特に「法定相続分で按分してから税率をかける」という点と、「控除と加算を適用する順序」の2つがつまずきやすい箇所です。
配偶者と子2人が9,000万円を法定相続分どおりに相続するケースで、実際の計算を追います。
課税遺産総額を計算する
財産の合計から債務・葬式費用を引き、生命保険金などの非課税枠を差し引いて課税価格を出します。そこから基礎控除を引きます。
9,000万円 - 基礎控除4,800万円(3,000万円+600万円×3人)= 課税遺産総額4,200万円
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法定相続分で按分して相続税の総額を出す
実際の分け方に関係なく、いったん法定相続分で分けたものとして各人の税額を計算し、合計します。
配偶者:4,200万円×1/2=2,100万円 → 税率15%・控除額50万円 → 265万円
子1人目:4,200万円×1/4=1,050万円 → 税率15%・控除額50万円 → 107万5,000円
子2人目:同じく107万5,000円
相続税の総額=480万円
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実際に取得した割合で総額を割り振る
STEP2で出した総額480万円を、実際に取得した財産の割合で按分します。法定相続分どおりなら次のようになります。
配偶者:480万円×1/2=240万円
子1人目:480万円×1/4=120万円
子2人目:120万円
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2割加算と税額控除を適用する
2割加算の対象者は1.2倍にしたうえで、配偶者の税額軽減・未成年者控除などを差し引きます。
配偶者:240万円 - 240万円(配偶者の税額軽減)= 0円
子2人:120万円ずつ= 合計240万円
重要ポイント:STEP2は実際の分け方ではなく法定相続分で計算します。ここを実際の取得額で計算してしまうと、相続税の総額が変わってしまいます。
計算ロジック:相続税は「総額をいったん確定してから各人に割り振る」構造です。そのため誰がいくら取得しても相続税の総額480万円は変わらず、変わるのは誰がいくら負担するかと、税額控除がいくら効くかだけです。
参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算/国税庁 No.4155 相続税の税率
STEP4で複数の控除や加算が絡む場合、適用する順序が決まっています。2割加算は税額控除より先に適用します。順序を逆にすると税額が変わるため、注意が必要です。
| 順序 | 適用するもの | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 相続税額の2割加算 | 配偶者・一親等の血族以外は1.2倍にする |
| 2 | 贈与税額控除(暦年課税) | 相続財産に加算された贈与について払った贈与税を差し引く |
| 3 | 配偶者の税額軽減 | 1億6,000万円または法定相続分相当額まで税額をゼロにする |
| 4 | 未成年者控除・障害者控除 | 10万円×18歳までの年数、または障害の程度に応じた額 |
| 5 | 相次相続控除 | 10年以内に相次いで相続があった場合の控除 |
| 6 | 外国税額控除 | 外国で相続税に相当する税を払った場合の控除 |
| 7 | 相続時精算課税分の贈与税額控除 | 払った贈与税が余れば還付される |
重要ポイント:7の相続時精算課税分の贈与税額控除だけは、控除しきれない分が還付されます。他の控除は税額がゼロになるまでで、マイナスにはなりません。
兄弟姉妹が相続人になるケースでは、2割加算を先に適用するかどうかで金額が変わります。たとえば兄弟姉妹1人が9,000万円を相続する場合、920万円を1.2倍して1,104万円が納税額です。
参照元:国税庁 No.4157 相続税額の2割加算/国税庁 No.4168 相次相続控除
同じ「9,000万円・配偶者と子3人」でも、資料によって200万円と201万円のように数字が割れることがあります。原因は端数処理です。相続税の計算では2箇所で切り捨てが入ります。
【切捨て①】法定相続分に応ずる取得金額
STEP2で課税遺産総額を法定相続分で按分した金額は、千円未満を切り捨てます。この金額に税率をかけます。
【切捨て②】各人の算出税額
STEP3で総額を実際の取得割合で按分した金額は、百円未満を切り捨てます。
配偶者と子3人のケースで実際に追ってみます。課税遺産総額3,600万円を法定相続分で按分すると、配偶者は1,800万円、子は各600万円です。
| 相続人 | 按分額 | 税率・控除額 | 税額 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | 1,800万円 | 15%・50万円 | 220万円 |
| 子3人 | 各600万円 | 10% | 各60万円(計180万円) |
| 相続税の総額 | 400万円 | ||
この400万円を実際の取得割合で割り振ります。配偶者が1/2、子が各1/6を取得したとすると、子1人の税額は400万円×1/6=66万6,666円です。ここで百円未満を切り捨てて66万6,600円となり、3人分で199万9,800円になります。
重要ポイント:切り捨てを踏まずに400万円÷2=200万円と概算すると200万円、四捨五入や別の丸め方をすると201万円になります。正確な金額は199万9,800円です。
計算ロジック:子7人のケースではこの差がさらに大きく出ます。課税遺産総額1,800万円を7人で按分すると1人257万1,428円です。
切捨ての反映:千円未満を切り捨てて257万1,000円としてから税率10%をかけるため、25万7,100円×7人=179万9,700円になります。
早見表の数字は「おおよその目安」として使い、実際の申告では端数処理を踏んだ正確な計算が必要です。数百円から数千円の違いですが、申告書に書く金額としては正確でなければなりません。
計算の前提になる財産の集計で漏れが出ると、その後の計算がすべて狂います。9,000万円帯で漏れやすいのは名義預金と生前贈与の加算です。
集計で漏れやすい財産
生前贈与の加算期間については、令和6年(2024年)1月1日以降の贈与について3年から7年へ延長されました。ただし段階的な移行期間があるため、令和8年(2026年)12月31日以前に相続が発生した場合の加算期間は3年以内です。
| 相続が発生した時期 | 加算される贈与の期間 |
|---|---|
| 令和8年12月31日以前 | 相続開始前3年以内 |
| 令和9年1月1日〜令和12年12月31日 | 令和6年1月1日以降の贈与のうち、相続開始前3年を超える部分も順次加算 |
| 令和13年1月1日以降 | 相続開始前7年以内 |
重要ポイント:「生前贈与の加算は7年」と一律に説明されることがありますが、今の時点で相続が発生した場合の加算期間は3年以内です。7年に完全移行するのは令和13年以降です。
計算ロジック:加算される贈与のうち、相続開始前3年を超える部分については合計100万円までが加算対象から除かれます。また加算されるのは相続や遺贈で財産を取得した人が受けた贈与だけで、財産を受け取らない孫への贈与は原則として加算されません。
参照元:国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)/国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択

同じ9,000万円でも、財産の中身によって相続税は大きく変わります。現金だけなら480万円ですが、自宅の土地が財産の58.3%以上を占めていれば0円になります。ここでは配偶者と子2人という同じ家族構成で、財産構成だけを変えた4パターンを比較します。
4つのパターンはすべて次の条件で計算しています。
【共通の前提】
重要ポイント:小規模宅地等の特例は申告期限内に申告書を提出することが適用の条件です。特例を使って0円になる場合でも申告は必要です。
財産のすべてが現金・預貯金で、評価を下げる余地がないケースです。9,000万円帯で最も税額が重くなる財産構成です。
| 財産の種類 | 評価額 | 評価減 | 課税価格 |
|---|---|---|---|
| 現金・預貯金 | 9,000万円 | なし | 9,000万円 |
| 課税価格の合計 | 9,000万円 | ||
課税価格9,000万円から基礎控除4,800万円を引いた4,200万円が課税遺産総額です。相続税の総額は480万円、配偶者の税額軽減を適用した後の納税額は240万円になります。
重要ポイント:現金のみの場合、相続が発生した後にできることはほぼありません。評価を下げる余地がないため、対策は生前にしかできません。一方で納税資金には困りません。
自宅の土地3,000万円・建物1,000万円・現金5,000万円という構成です。土地が財産の33.3%を占めるケースで、持ち家がある家庭の標準的な財産構成にあたります。
| 財産の種類 | 評価額 | 評価減 | 課税価格 |
|---|---|---|---|
| 自宅の土地(240㎡) | 3,000万円 | 80%減(2,400万円) | 600万円 |
| 自宅の建物 | 1,000万円 | なし | 1,000万円 |
| 現金・預貯金 | 5,000万円 | なし | 5,000万円 |
| 課税価格の合計 | 6,600万円 | ||
課税価格6,600万円から基礎控除4,800万円を引いた1,800万円が課税遺産総額です。相続税の総額は180万円、納税額は90万円になります。パターンAと比べて150万円軽くなります。
計算ロジック:課税遺産総額1,800万円を法定相続分で按分すると配偶者900万円・子各450万円です。いずれも1,000万円以下なので税率10%が適用され、90万円+45万円×2=180万円が相続税の総額になります。
賃貸アパートの土地4,000万円・建物2,000万円・現金3,000万円という構成です。賃貸用の不動産は自用の場合より評価が下がるため、複数の評価減が重なります。
| 財産の種類 | 自用の評価額 | 評価減 | 課税価格 |
|---|---|---|---|
| 賃貸アパートの土地(200㎡) | 4,000万円 | 貸家建付地で18%減 → さらに貸付事業用宅地で50%減 | 1,640万円 |
| 賃貸アパートの建物 | 2,000万円 | 貸家として30%減 | 1,400万円 |
| 現金・預貯金 | 3,000万円 | なし | 3,000万円 |
| 課税価格の合計 | 6,040万円 | ||
課税価格6,040万円から基礎控除4,800万円を引いた1,240万円が課税遺産総額です。相続税の総額は124万円、納税額は62万円になります。
表の見方:貸家建付地の評価減は「借地権割合60%×借家権割合30%×賃貸割合100%=18%」で計算しています。4,000万円×82%=3,280万円としたうえで、貸付事業用宅地等の特例(200㎡まで50%減)を適用して1,640万円になります。
重要ポイント:賃貸不動産は評価が大きく下がりますが、貸付事業用宅地等の特例は居住用(330㎡・80%減)より減額率が低く、併用にも制限があります。自宅と賃貸物件の両方がある場合はどちらに特例を使うかの判断が必要です。
計算ロジック:借地権割合は地域によって30%〜90%まで異なるため、路線価図で確認が必要です。借地権割合が低い地域では貸家建付地の評価減も小さくなり、上の表より課税価格が高くなります。
自宅の土地5,250万円・建物750万円・現金3,000万円という構成です。この構成なら相続税は0円になります。都市部で土地の路線価が高い地域の持ち家では、現実に起こりうる財産構成です。
| 財産の種類 | 評価額 | 評価減 | 課税価格 |
|---|---|---|---|
| 自宅の土地(280㎡) | 5,250万円 | 80%減(4,200万円) | 1,050万円 |
| 自宅の建物 | 750万円 | なし | 750万円 |
| 現金・預貯金 | 3,000万円 | なし | 3,000万円 |
| 課税価格の合計 | 4,800万円 | ||
課税価格4,800万円は基礎控除4,800万円とちょうど同額です。課税遺産総額が0円になるため、相続税は0円です。
重要ポイント:0円になっても小規模宅地等の特例を使うために申告書の提出が必要です。申告しなければ特例は適用されず、480万円の相続税が発生します。
計算ロジック:土地5,250万円に80%の評価減を適用すると4,200万円が減額され、課税価格は9,000万円-4,200万円=4,800万円になります。これが基礎控除と一致するため課税遺産総額は0円です。
4つのパターンを並べると、自宅の土地が占める割合が上がるほど税額が下がることがわかります。境界は式で求められます。
| 自宅の土地の評価額 | 財産に占める割合 | 課税価格 | 相続税の総額 | 納税額 |
|---|---|---|---|---|
| 0円(現金のみ) | 0% | 9,000万円 | 480万円 | 240万円 |
| 3,000万円 | 33.3% | 6,600万円 | 180万円 | 90万円 |
| 4,000万円 | 44.4% | 5,800万円 | 100万円 | 50万円 |
| 5,000万円 | 55.6% | 5,000万円 | 20万円 | 10万円 |
| 5,200万円 | 57.8% | 4,840万円 | 4万円 | 2万円 |
| 5,250万円 | 58.3% | 4,800万円 | 0円 | 0円 |
| 6,000万円 | 66.7% | 4,200万円 | 0円 | 0円 |
表の見方:土地が5,200万円のときの相続税の総額は4万円です。境界の直前では税額が数万円まで小さくなるため、土地の評価を少し下げるだけで0円に届く場合があります。
計算ロジック:0円になる条件は「9,000万円-土地の評価額×80%≦基礎控除4,800万円」です。これを解くと「土地の評価額≧4,200万円÷0.8=5,250万円」となり、財産9,000万円に占める割合は58.3%です。
重要ポイント:この境界は相続人の数によって動きます。配偶者と子1人(基礎控除4,200万円)なら必要な土地は6,000万円、配偶者と子3人(基礎控除5,400万円)なら4,500万円です。相続人が多いほど必要な土地の額は小さくなります。
境界の直前にいる場合、土地の評価を下げる補正が使えないか確認する価値があります。不整形地・間口が狭い土地・道路に接していない部分がある土地などは、評価額を下げる補正が適用できることがあります。
小規模宅地等の特例の要件は4つの類型ごとに違います。自分のケースで使えるかどうかは、下記の記事で確認してください。

同居していない子が自宅を相続する場合は「家なき子」の要件を満たすかどうかが分かれ目になります。

参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

配偶者がいる場合、配偶者にいくら相続させるかで税額が変わります。配偶者が9,000万円全額を相続すれば一次相続の相続税は0円になります。
ただしその配偶者が亡くなったときの二次相続で620万円がかかるため、通算では最も重い選択になります。ここでは母の取得額別にトータルの税額を示します。
父が亡くなり、母と子2人が9,000万円を相続するケースを考えます。母の固有財産はなく、母が相続した財産はそのまま母の死亡時に子2人へ引き継がれるものとします。
【一次相続だけを見た場合】
母が全額を相続すれば配偶者の税額軽減で相続税は0円です。母が何も相続しなければ、子2人が480万円を納めます。一次相続だけなら母に多く渡すほど有利です。
【二次相続まで見た場合】
母が相続した財産は母の死亡時にもう一度課税されます。二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、相続人が2人に減るため基礎控除も4,200万円に下がります。母に多く渡すと二次相続の税額が膨らみます。
母が全額を相続した場合の通算税額は620万円で、母が何も相続しない場合の480万円より140万円重くなります。一次相続で0円だったものが、二次相続で620万円に変わるためです。
母の取得額を500万円刻みで変えたときの、一次相続と二次相続を合わせたトータルの税額です。自分のケースがどの行にあたるかを確認してください。
| 母の取得額 | 子2人の取得額 | 一次相続 | 二次相続 | トータル |
|---|---|---|---|---|
| 0円 | 9,000万円 | 480万円 | 0円 | 480万円 |
| 1,500万円 | 7,500万円 | 400万円 | 0円 | 400万円 |
| 3,000万円 | 6,000万円 | 320万円 | 0円 | 320万円 |
| 4,000万円 | 5,000万円 | 266万6,700円 | 0円 | 266万6,700円(最小) |
| 4,500万円(法定相続分) | 4,500万円 | 240万円 | 30万円 | 270万円 |
| 6,000万円 | 3,000万円 | 160万円 | 180万円 | 340万円 |
| 7,500万円 | 1,500万円 | 80万円 | 395万円 | 475万円 |
| 9,000万円(全額) | 0円 | 0円 | 620万円 | 620万円(最大) |
表の見方:母の取得額が4,200万円以下なら二次相続の基礎控除(4,200万円)に収まるため二次相続は0円です。4,200万円を超えた部分に二次相続の税金がかかります。
重要ポイント:最小の266万6,700円と最大の620万円の差は353万3,300円です。分け方を決めるだけで、家族全体で納める税金がこれだけ変わります。
計算ロジック:一次相続の税額は「相続税の総額480万円×(1-母の取得割合)」で求まります。母が4,000万円なら480万円×5,000万円÷9,000万円=266万6,700円です。
二次相続の計算:母の財産4,000万円が二次相続の基礎控除4,200万円を下回るため、二次相続の相続税は0円になります。
判定表を見ると最小は母4,000万円ですが、法定相続分どおりの母4,500万円でも270万円です。差はわずか3万3,300円しかありません。
| 分け方 | トータル税額 | 最小との差 |
|---|---|---|
| 母4,000万円(最適) | 266万6,700円 | — |
| 母4,500万円(法定相続分) | 270万円 | +3万3,300円 |
| 母3,000万円 | 320万円 | +53万3,300円 |
| 母6,000万円 | 340万円 | +73万3,300円 |
| 母9,000万円(全額) | 620万円 | +353万3,300円 |
重要ポイント:9,000万円で子2人のケースでは、法定相続分どおりに分けるだけで最適に近い水準になります。1円単位で最適化する意味はほとんどありません。避けるべきなのは「母に全額」という選択です。
母に全額を渡す判断は、一次相続の申告書だけを見ると税額0円なので合理的に見えます。しかし二次相続で620万円がかかることまで含めると、法定相続分の270万円より350万円重い結果になります。
計算ロジック:母が9,000万円を相続した場合の二次相続は、9,000万円-基礎控除4,200万円=4,800万円が課税遺産総額です。子2人で按分して各2,400万円、税率15%・控除額50万円で310万円ずつ、合計620万円になります。
上の判定表は「母の固有財産が0円」「母の財産が減らない」という前提で計算しています。この前提が変わると最適な分け方も変わります。
【母に多く渡したほうがよいケース】
母の生活費や介護費用で財産が目減りする見込みがある場合、母が高齢で自宅に住み続ける必要がある場合、二次相続までに母が生前贈与で財産を減らせる場合です。
【子に多く渡したほうがよいケース】
母に固有の財産がすでにある場合、母の余命が長く二次相続までの期間が読めない場合、子が納税資金を持っている場合です。
税額以外にも考えるべき点があります。母が自宅を相続すれば小規模宅地等の特例を確実に使えますが、二次相続では同居していない子は「家なき子」の要件を満たさなければ特例が使えません。二次相続で特例が使えなくなる可能性を織り込む必要があります。
また母の年齢が高く、一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合は相次相続控除が使えます。この控除があると二次相続の税額が下がるため、母に多く渡す選択の不利が小さくなります。
二次相続を踏まえた分け方の考え方は、下記の記事で対策の全体像を解説しています。

配偶者の税額軽減そのものの要件や上限額については、下記の記事で確認してください。

参照元:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減/国税庁 No.4168 相次相続控除

ここまでは相続が発生した後の話ですが、生前に準備できるなら9,000万円は相続税を0円にできる金額帯です。
生命保険の非課税枠、死亡退職金の非課税枠、そして養子縁組による基礎控除の拡大を組み合わせると、課税価格を基礎控除以下に収められます。ただし余裕はほとんどありません。
現金9,000万円(配偶者と子2人・相続税の総額480万円)を基準に、対策を積み上げたときの効果を計算しました。
| 段階 | 対策 | 課税価格 | 基礎控除 | 相続税の総額 |
|---|---|---|---|---|
| 対策なし | — | 9,000万円 | 4,800万円 | 480万円 |
| 第1段階 | 生命保険1,500万円(500万円×3人) | 7,500万円 | 4,800万円 | 287万5,000円 |
| 第2段階 | 養子1人(相続人4人)※保険なし | 9,000万円 | 5,400万円 | 400万円 |
| 第3段階 | 生命保険2,000万円(500万円×4人)+養子1人 | 7,000万円 | 5,400万円 | 159万9,800円 |
| 第4段階 | +死亡退職金2,000万円(500万円×4人) | 5,000万円 | 5,400万円 | 0円 |
表の見方:第1段階と第2段階はそれぞれ単独で実行した場合です。第3段階は両方を組み合わせ、第4段階でさらに死亡退職金の非課税枠を使います。
重要ポイント:第3段階でも159万9,800円が残ります。9,000万円は生命保険と養子縁組だけでは0円にできません。死亡退職金の非課税枠まで使って初めて届きます。
計算ロジック:養子を1人迎えると相続人は4人になり、基礎控除は5,400万円、生命保険と死亡退職金の非課税枠はそれぞれ2,000万円になります。
第4段階の計算:課税価格が9,000万円-4,000万円=5,000万円となり、基礎控除5,400万円を下回るため相続税は0円です。
養子縁組は基礎控除だけでなく非課税枠も広げます。相続人が3人から4人に増えることで、基礎控除が600万円、生命保険の非課税枠が500万円、死亡退職金の非課税枠が500万円、合わせて1,600万円分の枠が増えます。
参照元:国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金/国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
第4段階まで積んだときに0円にできる遺産の上限は9,400万円です。9,000万円はこの範囲に入る最後の帯で、余裕は400万円しかありません。
| 遺産総額 | 第4段階の課税価格 | 基礎控除 | 相続税の総額 |
|---|---|---|---|
| 8,000万円 | 4,000万円 | 5,400万円 | 0円 |
| 9,000万円 | 5,000万円 | 5,400万円 | 0円 |
| 9,400万円(上限) | 5,400万円 | 5,400万円 | 0円 |
| 1億円 | 6,000万円 | 5,400万円 | 60万円 |
| 1億1,000万円 | 7,000万円 | 5,400万円 | 159万9,800円 |
表の見方:第4段階は「生命保険2,000万円+死亡退職金2,000万円+養子1人」の組み合わせです。合計4,000万円を課税価格から外し、基礎控除5,400万円と比べます。
計算ロジック:0円になる条件は「遺産総額-4,000万円≦5,400万円」です。これを解くと遺産総額は9,400万円以下となります。9,400万円が制度上の上限で、それを超えると同じ対策でも0円にはなりません。
重要ポイント:財産が9,000万円から1億円に増えると、同じ対策をしても0円から60万円へ変わります。財産が増える見込みがあるなら、9,000万円のうちに対策を終えておく意味があります。
ここに小規模宅地等の特例を重ねれば1億円を超えても0円にできますが、それは自宅を持っている場合に限られます。現金中心の財産で使える手段は生命保険・死亡退職金・養子縁組の3つで、その上限が9,400万円です。
第4段階は死亡退職金2,000万円が実際に支給されることを前提にしています。この前提が成り立たない人は少なくありません。
死亡退職金の非課税枠が使えないケース
死亡退職金が出ない場合、対策は第3段階で止まり159万9,800円が残ります。現金の一部を配偶者の税額軽減の枠に寄せれば実際の納税額は約80万円まで下がりますが、二次相続で戻ってきます。
重要ポイント:自営業の場合は小規模企業共済の死亡共済金が死亡退職金として扱われ、非課税枠の対象になります。退職金制度がない人でも枠を作る方法があります。
また会社役員の場合は、死亡退職金の支給について株主総会や取締役会の決議が必要です。生前に役員退職慰労金規程を整えておかないと、実際に支給できないことがあります。
死亡退職金の非課税枠の詳細や弔慰金との区別は、下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
9,000万円帯では効果が小さい対策や、リスクを伴う対策もあります。やる前に効果の大きさを確認してください。
| 対策 | 9,000万円帯での効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 暦年贈与(年110万円) | 10年で1,100万円を移せば税額は約120万円下がる | 相続開始前の一定期間内の贈与は加算される |
| 養子縁組 | 基礎控除+非課税枠で1,600万円分の効果 | 実子がいれば1人まで。節税のみを目的とした縁組は否認されうる |
| 生命保険 | 非課税枠の上限まで確実に効く | 枠を超える部分は課税対象。契約形態を間違えると所得税・贈与税になる |
| 孫への贈与 | 加算対象外なので効果が大きい | 孫が遺贈や保険金を受け取ると加算対象になる |
| 不動産の購入 | 評価が下がるが換金性が落ちる | 相続直前の購入は評価が否認されることがある |
| 相続時精算課税 | 税額を下げる効果はない(期間の制限なく全額加算) | 値上がりする財産の移転には有効 |
重要ポイント:相続時精算課税制度は贈与した財産を相続時に全額加算するため、相続税を減らす効果はありません。年110万円の基礎控除部分は加算されませんが、税額を下げる目的で選ぶ制度ではありません。
計算ロジック:暦年贈与の効果は「移した金額×限界税率」で概算できます。9,000万円・配偶者と子2人の場合、課税遺産総額の一部は税率15%の区分にあるため、1,100万円を移すと約120万円の減額になります。
養子縁組の効果とリスクは下記の記事で詳しく解説しています。

生命保険を使った対策の具体的な組み方は、下記の記事が参考になります。

参照元:国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき/国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
対策には準備期間が必要なものがあります。思い立ってすぐ効果が出る対策と、数年かかる対策を分けて考えてください。
生命保険への加入・死亡退職金の制度確認
一時払終身保険なら加入して即座に非課税枠が使えます。健康状態によっては加入できないため、早いほうが有利です。勤務先の死亡退職金の有無も確認します。
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養子縁組・遺言の作成
養子縁組は届出だけで成立しますが、家族の合意形成に時間がかかります。相続人が増えることで分け方が変わるため、遺言もあわせて整えます。
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暦年贈与
相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算されるため、効果を出すには3年を超える期間が必要です。長期で続ければ移せる金額が積み上がります。
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小規模宅地等の特例・分け方の判断
相続が発生した後にできるのは、特例の適用と分割の工夫です。申告期限は10ヶ月なので、この期間内に判断します。
重要ポイント:生命保険の非課税枠は加入した時点から効きますが、健康状態が悪化すると加入できなくなります。9,000万円帯で0円を狙うなら、この枠の確保が起点になります。
参照元:国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

9,000万円の相続では、基礎控除以外にも使える控除・特例が複数あります。どれを使うかによって税額は0円から480万円まで動きます。
ここでは使える制度を一覧で整理したうえで、申告が必要なケースと不要なケースの違いを確認します。同じ0円でも申告が必要な場合があるためです。
9,000万円帯で実際に効果が出る制度を、効果の大きい順に並べました。
| 制度 | 内容 | 9,000万円帯での効果 | 申告 |
|---|---|---|---|
| 基礎控除 | 3,000万円+600万円×法定相続人の数 | 相続人3人で4,800万円 | — |
| 配偶者の税額軽減 | 1億6,000万円または法定相続分相当額まで | 配偶者の負担分がすべて消える | 必要 |
| 小規模宅地等の特例(居住用) | 330㎡まで評価額を80%減 | 土地5,250万円以上なら0円になる | 必要 |
| 小規模宅地等の特例(貸付事業用) | 200㎡まで評価額を50%減 | 賃貸物件の評価が下がる | 必要 |
| 生命保険金の非課税枠 | 500万円×法定相続人の数 | 相続人3人で1,500万円 | — |
| 死亡退職金の非課税枠 | 500万円×法定相続人の数 | 相続人3人で1,500万円 | — |
| 未成年者控除 | 10万円×18歳になるまでの年数 | 子が10歳なら80万円 | 必要 |
| 障害者控除 | 10万円(特別障害者は20万円)×85歳までの年数 | 対象者がいれば大きい | 必要 |
| 相次相続控除 | 10年以内に相次いで相続があった場合 | 二次相続の税額が下がる | 必要 |
| 債務控除・葬式費用 | 借入金・未払医療費・葬儀費用を差し引く | 課税価格そのものが下がる | — |
表の見方:「申告」欄が「必要」の制度は、申告書を提出しなければ適用されません。「—」の制度は課税価格を計算する段階のものなので、申告義務の判定そのものに影響します。
重要ポイント:配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は、申告しなければ使えません。この2つで0円になるケースは、申告を忘れると本来の税額がそのまま発生します。
葬式費用は課税価格から差し引けますが、香典返しの費用・初七日以降の法要費用・墓地や墓碑の購入費用は差し引けません。この区別を間違えると課税価格が変わります。
控除と特例の全体像は、下記の記事で一覧にまとめています。

参照元:国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務/国税庁 No.4108 相続税がかからない財産
相続税が0円になるルートは複数ありますが、申告が必要かどうかはルートによって違います。ここを混同すると無申告のペナルティを受けることになります。
| 0円になる理由 | 申告 | 理由 |
|---|---|---|
| 法定相続人が10人以上で基礎控除が9,000万円以上 | 原則不要 | 課税価格が基礎控除以下なので申告義務が生じない |
| 生命保険・死亡退職金の非課税枠で基礎控除以下になった | 原則不要 | 非課税枠は課税価格の計算段階で差し引かれる |
| 配偶者の税額軽減を使って0円になった | 必要 | 申告書に適用を記載しないと適用されない |
| 小規模宅地等の特例を使って0円になった | 必要 | 申告書と明細書の提出が適用の要件 |
| 未成年者控除・障害者控除で0円になった | 必要 | 税額控除なので申告が前提 |
表の見方:緑の行は「基礎控除以下になったので申告義務がない」ケース、赤の行は「申告して初めて0円になる」ケースです。後者で申告しないと、本来の税額に加えて無申告加算税・延滞税がかかります。
重要ポイント:9,000万円で小規模宅地等の特例を使って0円にしたケースで申告を忘れると、480万円の相続税と無申告加算税がまとめて発生します。
また基礎控除以下で申告義務がない場合でも、税務署から「相続税についてのお尋ね」が届くことがあります。申告義務がないことを説明する回答は必要です。
自分のケースで申告が必要かどうかの判定手順は、下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.4205 相続税の申告と納税/国税庁 No.4124 小規模宅地等の特例
相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。9,000万円帯では配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例が税額を大きく動かすため、この期限までに分割を決められるかが結果を左右します。
期限内に分割が決まらないと起きること
ただし救済策があります。申告書と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、申告期限から3年以内に分割が決まった時点で更正の請求ができ、払いすぎた税金が還付されます。
重要ポイント:分割見込書は申告書と同時に提出しなければなりません。後から出すことはできず、忘れると3年以内に分割しても特例が使えません。
計算ロジック:未分割で480万円を納めたあと、3年以内に法定相続分どおりの分割が決まれば、配偶者の税額軽減で240万円が還付されます。自宅があって小規模宅地等の特例も使えれば還付額はさらに増えます。
納税資金が足りない場合は延納という選択もあります。9,000万円のうち不動産の割合が高いケースでは、現金が240万円に足りないことがあります。延納は担保の提供と利子税の負担が条件です。
参照元:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告/国税庁 No.4211 相続税の延納

9,000万円が相続税の制度の中でどんな位置にあるのかを、隣の金額帯と並べて確認します。9,000万円は「生前対策が届く最後の帯」です。1億円になると同じ対策では0円に届きません。この境目を知っておくと、対策をどこまでやるべきかの判断がつきます。
5,000万円から1億円までの6つの金額帯について、同じ6つの軸で計算した結果を並べます。
| 遺産総額 | 総額(配偶者+子2人) | 人数だけで0円 | 0円になる自宅の土地 | 保険+養子 | 保険+退職金+養子 |
|---|---|---|---|---|---|
| 5,000万円 | 20万円 | 4人以上 | 250万円(5%) | 0円 | 0円 |
| 6,000万円 | 120万円 | 5人以上 | 1,500万円(25%) | 0円 | 0円 |
| 7,000万円 | 225万円 | 7人以上 | 2,750万円(39%) | 0円 | 0円 |
| 8,000万円 | 350万円 | 9人以上 | 4,000万円(50%) | 60万円 | 0円 |
| 9,000万円 | 480万円 | 10人以上 | 5,250万円(58%) | 159万9,800円 | 0円 |
| 1億円 | 630万円 | 12人以上 | 6,500万円(65%) | 275万円 | 60万円 |
表の見方:「保険+養子」は生命保険2,000万円と養子1人(相続人4人)を組み合わせた場合の相続税の総額です。「保険+退職金+養子」はさらに死亡退職金2,000万円を加えた第4段階の総額です。
重要ポイント:「保険+養子」で0円になる最後が7,000万円、「保険+退職金+養子」で0円になる最後が9,000万円です。金額が上がるにつれて必要な対策が1つずつ増えていきます。
計算ロジック:「0円になる自宅の土地」は「(遺産総額-基礎控除4,800万円)÷0.8」で求めています。小規模宅地等の特例で評価が80%下がるため、この金額以上の土地があれば課税価格が基礎控除以下になります。
「人数だけで0円」の列を見ると、5,000万円は4人、9,000万円は10人と必要な人数が増えていきます。9,000万円は基礎控除が「3,000万円+600万円×10人」でちょうど一致する金額です。
6軸の比較から、9,000万円の位置づけがはっきりします。現金中心の財産で使える3つの対策をすべて積めば0円になる、最後の金額帯です。
【7,000万円まで】対策2つで足りる
生命保険の非課税枠と養子縁組の2つで0円になります。死亡退職金がなくても届くため、自営業や退職済みの人でも0円を狙えます。
【8,000万円〜9,400万円】対策3つ全部が必要
生命保険・死亡退職金・養子縁組をすべて使って初めて0円になります。死亡退職金が出ない人は0円に届きません。9,000万円は上限9,400万円まであと400万円の位置です。
【1億円以上】現金中心では0円にできない
3つ全部を使っても60万円以上が残ります。0円にするには小規模宅地等の特例を重ねる、つまり自宅を持っていることが必要になります。
重要ポイント:財産が増える見込みがあるなら、9,400万円を超える前に対策を終えておく意味があります。この線を越えると、同じ対策をしても0円には届きません。
逆に言えば、財産が9,000万円で今後大きく増える見込みがないなら、生命保険・死亡退職金・養子縁組の3つを整えることで相続税をゼロにできます。9,000万円帯は対策の効果が最もはっきり出る金額帯です。
財産が1,000万円増えると相続税はいくら増えるのかを、配偶者と子2人のケースで確認します。
| 遺産総額 | 相続税の総額 | 1つ下の帯との差 | 実際の納税額 |
|---|---|---|---|
| 7,000万円 | 225万円 | — | 112万5,000円 |
| 8,000万円 | 350万円 | +125万円 | 175万円 |
| 9,000万円 | 480万円 | +130万円 | 240万円 |
| 1億円 | 630万円 | +150万円 | 315万円 |
| 1億1,000万円 | 785万円 | +155万円 | 392万5,000円 |
表の見方:財産が1,000万円増えるごとに相続税の総額は125万円〜155万円増えます。増え方が一定でないのは、法定相続分に応ずる取得金額が税率の区分をまたぐタイミングがあるためです。
重要ポイント:8,000万円から9,000万円への増加分は130万円ですが、9,000万円から1億円では150万円に広がります。財産が増えるほど1,000万円あたりの税負担が重くなります。
隣の金額帯の詳しい試算は、それぞれの記事で確認できます。8,000万円のケースは下記の記事で解説しています。

1億円になると納税資金の確保が論点になります。下記の記事で配偶者にいくら渡すかの判定を含めて解説しています。

7,000万円は相続人の人数で0円になる境界が7人です。下記の記事で確認できます。


9,000万円帯で実際に起こりやすい失敗を3つ挙げます。いずれも数十万円から数百万円の損失につながります。どれも事前に確認しておけば避けられるものです。
相続人が10人いれば基礎控除は9,000万円で申告は原則不要ですが、人数の数え方を間違えると申告漏れになります。
【失敗1】養子を全員カウントした
実子2人と養子3人がいるケースで相続人を5人と数え、さらに他の相続人を加えて10人と計算していました。実際は実子がいる場合、養子は1人までしか算入できません。正しい人数は3人で基礎控除は4,800万円、相続税の総額は480万円でした。
【失敗2】孫を相続人に数えた
子が健在なのに孫も相続人として数えていました。孫が相続人になるのは、子が先に亡くなっている場合の代襲相続に限られます。
【失敗3】相続放棄した人を除いた
10人のうち3人が相続放棄したため7人として計算していました。基礎控除の計算では相続放棄した人も含めて数えるため、この場合も10人です。放棄によって基礎控除が減ることはありません。
対策:戸籍を出生までさかのぼって取得し、法定相続人を確定させてください。養子がいる場合は実子の有無で算入できる人数が変わるため、必ず算入制限を確認してから基礎控除を計算します。
重要ポイント:申告義務があるのに申告しなかった場合、本来の税額に加えて無申告加算税(原則15%、50万円を超える部分は20%)と延滞税がかかります。480万円の税額なら加算税だけで80万円以上になります。
参照元:国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき/国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
父が亡くなり、母と子2人が9,000万円を相続したケースです。「母の生活を守るため」という理由で母が全額を相続し、配偶者の税額軽減で一次相続の相続税は0円になりました。
その後どうなったか
対策:一次相続の分割を決める段階で二次相続まで含めた試算をしてください。9,000万円で子2人なら法定相続分どおりに分けるだけで最適に近くなります。母の取得額を4,200万円以下に抑えれば二次相続は0円です。
重要ポイント:母の生活資金を確保する必要がある場合は、母が自宅と生活費相当の現金を取得し、残りを子が取得する形にできます。全額を母に渡す必要はありません。
なお一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合は相次相続控除が使えます。上のケースでは一次相続で母が納税していないため控除額は生じませんが、母が一部を納税していれば二次相続の税額が下がります。
生前対策として生命保険2,000万円に加入し、養子縁組も行ったケースです。ここまでで課税価格は7,000万円、基礎控除5,400万円で相続税の総額は159万9,800円でした。
【何が起きたか】
「保険と養子縁組をやったので対策は完了」と判断して止めていました。勤務先には死亡退職金の制度があり、規程を整えれば2,000万円の非課税枠が使えたのに確認していませんでした。
【あと1つで0円だった】
死亡退職金2,000万円の非課税枠を使えば課税価格は5,000万円になり、基礎控除5,400万円を下回って相続税は0円でした。159万9,800円は不要な負担でした。
対策:9,000万円帯では生命保険・死亡退職金・養子縁組の3つすべてが必要です。2つで止めると159万9,800円が残ります。勤務先の死亡退職金の有無、自営業なら小規模企業共済の加入状況を必ず確認してください。
計算ロジック:第3段階の課税価格7,000万円から基礎控除5,400万円を引いた1,600万円が課税遺産総額です。
内訳:配偶者800万円は税率10%で80万円、子3人は各266万6,000円で26万6,600円ずつ、合計159万9,800円になります。
9,000万円の相続で確認すべき項目を並べました。相続が発生した後でも、生前対策の段階でも使えます。
重要ポイント:このうち最も見落とされやすいのは名義預金です。家族名義の口座に被相続人の資金が入っている場合、その分は相続財産として集計する必要があります。税務調査で最も指摘されやすい項目です。

9,000万円の相続は、税理士の判断で結果が0円から480万円まで変わる金額帯です。
小規模宅地等の特例が使えるかの判定、配偶者にいくら渡すかの試算、死亡退職金の枠を作れるかの確認、いずれも実務経験の差が税額に出ます。複数の税理士から見積りを取って比較してください。
税理士は全員が相続税に精通しているわけではありません。法人税や所得税を主業務にしている事務所も多く、相続税の申告を年に数件しか扱わない税理士は珍しくありません。相続税は財産評価と特例の適用判定に実務経験が要るため、取扱件数の差がそのまま税額の差になります。
9,000万円の相続で実務経験の差が出るポイント
具体的な例で差の大きさを示します。同じ9,000万円の相続で、A税理士は240万円、B税理士は0円という結果になることがあります。財産の内訳は自宅の土地5,250万円・建物750万円・現金3,000万円です。
| — | A税理士 | B税理士 |
|---|---|---|
| 小規模宅地等の特例 | 「同居していないので使えない」と判断 | 家なき子の要件を確認して適用 |
| 課税価格 | 9,000万円 | 4,800万円 |
| 相続税の総額 | 480万円 | 0円 |
| 納税額 | 240万円 | 0円 |
重要ポイント:この差240万円は税理士報酬(9,000万円規模なら50万円前後)の4倍以上です。報酬の安さで選ぶより、判定の精度で選ぶほうが手元に残る金額は大きくなります。
見積りを取ったとき、金額だけでなく提案の中身を比べてください。次の3点で実務力が判定できます。
判定ポイント1:分割パターンの提案数/「法定相続分どおりで240万円」で終わる事務所と、「母4,000万円なら266万6,700円、母に全額なら620万円」と複数案を出す事務所があります。→ 後者は二次相続まで含めた設計に慣れていると判定できます。
判定ポイント2:土地評価の進め方/見積りに「現地調査」「不整形地補正の検討」が明記されているかを見てください。境界の直前なら評価を数十万円下げるだけで0円に届きます。→ 現地を見ない事務所はこの余地を取り逃がします。
判定ポイント3:書面添付制度の対応/申告書に税理士が計算の根拠を添付する制度です。この対応が見積りに含まれているかを確認してください。→ 書面添付を標準対応にしている事務所は、税務調査を見据えた申告に慣れていると判定できます。追加料金の有無もあわせて確認します。
生前対策の相談なら、判定ポイント1を「対策の段階をいくつ提示したか」に置き換えて比べてください。生命保険だけを提案する事務所と、生命保険・死亡退職金・養子縁組の3つを組み合わせて0円までの道筋を示す事務所では、結果が159万9,800円変わります。
9,000万円の相続を自分だけで進めた場合に起こりうることを整理します。
相談しないまま進めたときのリスク
特に見落としが起きやすいのは「0円になるはずだったのに申告しなかった」というケースです。小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は申告が適用の条件なので、税額0円だと思って申告しないと本来の税額が発生します。
過大に納めてしまうケースも起きます。申告期限から5年以内なら更正の請求で還付を受けられますが、期限を過ぎると取り戻せません。9,000万円帯では240万円前後が動くため、判断のひとつで手元に残る金額が大きく変わります。
複数の税理士から見積りを取る流れは4つのステップです。相続開始から7ヶ月以内に依頼先を決めておくと申告期限に余裕が生まれます。
相続の概要を整理する
被相続人の資産内容(現金・不動産・有価証券)と概算額、相続人の構成と年齢、遺言の有無を整理します。9,000万円帯では自宅の土地の評価額が結果を左右するため、固定資産税の納税通知書を手元に用意してください。
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一括見積り・相談サービスに依頼する
希望内容(相続税申告・相続税の節税・確定申告・準確定申告など)を明記し、相続税の対応実績がある税理士3〜5社へ同時に打診します。所有している不動産があれば所在地・広さを記載してください。
財産の種類や相続人の人数はできるだけ正確に伝えると、見積りの精度が上がります。フォームの記入は5分程度で終わります。
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見積りと初回相談を受ける
各税理士から「提案内容」「試算した相続税額」「報酬額」が記載された見積りが届きます。気になる事務所と初回相談を実施し、上の3つの判定ポイントを実際に質問して確認してください。
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税理士を選定・正式依頼する
「提案内容の質」「説明の丁寧さ」「報酬の納得性」で最適な事務所を選びます。相続開始から7ヶ月以内に決定すれば、資料収集と分割協議に必要な時間を確保できます。
重要ポイント:生前対策の相談は期限がないため後回しにされがちですが、生命保険は健康状態が悪化すると加入できなくなります。9,000万円で0円を狙うなら早いほうが確実です。
法定相続人がいる場合の最大は、兄弟姉妹1人が相続するケースの1,104万円です。子1人のみなら920万円で、2割加算がない分だけ軽くなります。
最も重いのは法定相続人が1人もおらず、遺言で第三者に遺贈するケースです。基礎控除が3,000万円しかなく2割加算もあるため1,320万円になります。
「9,000万円の相続税は最大920万円」と書かれた資料もありますが、それは相続人が子1人の場合の金額です。
10人以上です。基礎控除が3,000万円+600万円×10人=9,000万円となり、遺産9,000万円とちょうど同額になるためです。この場合は特例を使わなくても0円で、申告も原則不要です。
9人では0円になりません。基礎控除8,400万円で600万円の課税遺産が残り、相続税の総額は59万9,400円です。
なお養子は実子がいれば1人まで、いなければ2人までしか人数に含められません。
自宅の土地が5,250万円以上、つまり財産の58.3%以上を占めていれば0円になります。小規模宅地等の特例で評価額が80%下がり、課税価格が基礎控除4,800万円以下になるためです。
自宅の土地が3,000万円(33.3%)だと課税価格6,600万円で90万円かかります。境界の直前は税額がごく小さくなり、土地が5,200万円なら納税額は2万円です。
この水準なら土地の補正を1つ適用するだけで0円にできる場合もあります。ただし特例で0円にした場合は申告が必要です。
できますが、生命保険と養子縁組の2つだけでは足りません。相続人4人として保険の非課税枠2,000万円と基礎控除の増加600万円を使っても159万9,800円が残ります。
死亡退職金の非課税枠2,000万円も足せば課税価格が5,000万円になり、基礎控除5,400万円を下回って0円になります。この3つで0円にできる遺産の上限は9,400万円です。
死亡退職金は実際に支給される場合にしか使えないため、退職金制度のない勤務先や自営業では第3段階の159万9,800円が残ります。
対策が届くかどうかが違います。8,000万円と9,000万円はどちらも生命保険・死亡退職金・養子縁組の3つをすべて使えば0円になりますが、1億円では同じ3つを使っても60万円が残ります。
0円にできる上限は9,400万円なので、9,000万円は現金中心の財産で0円にできる最後の帯です。
0円にするために必要な自宅の土地の割合も違います。8,000万円なら財産の50%、9,000万円なら58.3%、1億円なら65%です。
人数だけで0円にする場合も、8,000万円は9人以上、9,000万円は10人以上が必要になります。
遺産9,000万円の相続税は、相続人の構成で0円から1,320万円まで開きます。同じ家族構成でも、財産の中身と分け方で結果は大きく変わります。
0円にする道は3つあり、どれか1つを越えられれば足ります。自分の状況でどれが越えやすいかを見極めることが出発点になります。
この記事で扱った内容を整理すると次のとおりです。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。相続税法の改正により取扱いが変更される場合があります。最新の制度については国税庁のウェブサイトまたは相続税の対応実績がある税理士にご確認ください。