


遺産が5億円あるとき、相続税は相続人の構成によって0円から2億3,160万円まで変わります。
この帯の特徴は配偶者の税額軽減の上限が1億6,000万円ではなくなることで、遺産が3億2,000万円を超えると法定相続分相当額のほうが大きくなるためです。
相続人が配偶者と子なら上限は2億5,000万円まで広がりますが、それでも配偶者に全額を渡すと6,555万円が残ります。
自宅の土地で0円にするには5億6,500万円分の土地が必要になり、財産総額を超えてしまうため計算上どうやっても成立しません。
相続人の数を増やす方法も79人が必要で、生前対策を4つ積んでも1億424万9,400円が残ります。
そのため5億円で考えるべきは「配偶者にいくら渡すか」と「数千万円の納税資金をどう用意するか」の2つです。
この記事では上限が切り替わる仕組みを数値で示したうえで、家族構成別の早見表、0円にできない理由、配偶者の取得額の判定表、財産構成別のシミュレーションと納税資金、3億円・10億円との位置関係までを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

遺産5億円の相続税は、相続人の構成によって0円から2億3,160万円まで変わります。5億円で0円になるのは配偶者だけが相続人のケースに限られます。
まず自分がどの構成にあたるかを確認してください。5億円では構成によって配偶者の税額軽減の上限そのものが変わるため、ここが出発点になります。
遺産5億円で相続税がいくらになるかは、相続人の数、配偶者がいるかどうか、相続人が誰か、そして財産の中身で決まります。
【下限】0円
配偶者だけが相続人の場合です。配偶者の法定相続分が全額になるため、税額軽減の上限も5億円になります。子や父母、兄弟姉妹がいる場合は成立しません。
【標準】6,555万円
配偶者と子2人という最も多い構成で、財産が現金のみ、特例を使わない場合の納税額です。相続税の総額は1億3,110万円で、配偶者が法定相続分を相続すればその半分を子2人が負担します。
【上限】2億3,160万円
法定相続人が1人もおらず、遺言で第三者に5億円を遺贈する場合です。基礎控除が3,000万円しかなく、さらに相続税額の2割加算が適用されます。
下限と上限の差は2億3,160万円です。同じ5億円でも誰が相続するかで手元に残る金額が2億円以上変わります。
参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算/国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
1億円以下の帯では相続税を0円にする方法が複数ありました。3億円でそのほとんどが使えなくなり、5億円では配偶者の控除の枠が広がってもなお0円に届きません。
| 0円にする方法 | 1億円以下 | 3億円 | 5億円 |
|---|---|---|---|
| 配偶者に全額渡す | 成立 | 2,669万3,333円が残る | 6,555万円が残る |
| 相続人の数を増やす | 10〜12人で成立 | 45人が必要 | 79人が必要 |
| 自宅の土地の特例 | 財産の58〜65%で成立 | 財産の105%で不可能 | 財産の113%で不可能 |
| 生前対策(保険+退職金+養子) | 9,400万円まで成立 | 3,879万9,800円が残る | 1億424万9,400円が残る |
表の見方:5億円では配偶者の税額軽減の上限が2億5,000万円に広がります。3億円の1億6,000万円より9,000万円も大きい枠ですが、それでも残る税額は3億円のときより増えます。
重要ポイント:そのため5億円で考えるのは「配偶者にいくら渡すか」と「数千万円の納税資金をどう用意するか」の2つです。配偶者の取得額を決めるだけで通算1億778万2,400円の差が出ます。
5億円の相続税が最も重くなるケースを整理します。相続人が1人だけだと基礎控除が小さくなるうえ、総額をその1人が全額負担するため税負担が最も重くなります。
| 相続人 | 基礎控除 | 課税遺産総額 | 相続税の総額 | 2割加算 | 納税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 子1人 | 3,600万円 | 4億6,400万円 | 1億9,000万円 | なし | 1億9,000万円 |
| 兄弟姉妹1人 | 3,600万円 | 4億6,400万円 | 1億9,000万円 | あり(1.2倍) | 2億2,800万円 |
| 孫1人(代襲相続でない) | 3,600万円 | 4億6,400万円 | 1億9,000万円 | あり(1.2倍) | 2億2,800万円 |
| 法定相続人0人(第三者への遺贈) | 3,000万円 | 4億7,000万円 | 1億9,300万円 | あり(1.2倍) | 2億3,160万円 |
表の見方:上の3行はいずれも基礎控除3,600万円で総額1億9,000万円ですが、2割加算の有無で納税額が3,800万円変わります。最下行は法定相続人が誰もいないケースで、基礎控除が3,000万円まで下がります。
「5億円の相続税は最高38%」と書かれた資料がありますが、これは相続人が子1人の場合の負担率です。兄弟姉妹1人なら45.6%、法定相続人がいない遺贈なら46.32%に達します。
計算ロジック:法定相続人が0人の場合、基礎控除は3,000万円+600万円×0人=3,000万円です。課税遺産総額4億7,000万円に税率50%・控除額4,200万円を適用して1億9,300万円、これに2割加算を適用して2億3,160万円になります。
参照元:国税庁 No.4157 相続税額の2割加算/国税庁 No.4155 相続税の税率
財産が現金・預貯金のみで特例を使わない前提の一覧です。配偶者がいるかいないかで負担は2倍以上変わります。
| 家族構成 | 法定相続人 | 基礎控除 | 相続税の総額 | 法定相続分どおりの納税額 |
|---|---|---|---|---|
| 配偶者+子1人 | 2人 | 4,200万円 | 1億5,210万円 | 7,605万円 |
| 配偶者+子2人 | 3人 | 4,800万円 | 1億3,110万円 | 6,555万円 |
| 配偶者+子3人 | 4人 | 5,400万円 | 1億1,924万9,700円 | 5,962万4,850円 |
| 配偶者+子4人 | 5人 | 6,000万円 | 1億1,000万円 | 5,500万円 |
| 子1人のみ | 1人 | 3,600万円 | 1億9,000万円 | 1億9,000万円 |
| 子2人のみ | 2人 | 4,200万円 | 1億5,210万円 | 1億5,210万円 |
| 子3人のみ | 3人 | 4,800万円 | 1億2,979万9,200円 | 1億2,979万9,200円 |
| 子4人のみ | 4人 | 5,400万円 | 1億1,040万円 | 1億1,040万円 |
| 配偶者+父母2人 | 3人 | 4,800万円 | 1億3,986万6,300円 | 4,662万2,100円 |
| 配偶者+兄弟姉妹1人 | 2人 | 4,200万円 | 1億5,855万円 | 4,756万5,000円 |
| 配偶者のみ | 1人 | 3,600万円 | 1億9,000万円 | 0円 |
表の見方:「相続税の総額」は相続人全員が負担する合計額です。「法定相続分どおりの納税額」は配偶者が法定相続分を相続して税額軽減を適用した後の金額になります。
2割加算に注意:兄弟姉妹や孫が相続する場合は税額が1.2倍になります。この表で最も納税額が軽いのは配偶者と父母2人の4,662万2,100円です。
重要ポイント:配偶者と兄弟姉妹の組み合わせは総額が1億5,855万円と最も重くなります。配偶者の法定相続分が4分の3と大きいため納税額は抑えられますが、兄弟姉妹には2割加算があるため4,756万5,000円になります。
計算ロジック:配偶者と子2人では課税遺産総額4億5,200万円を法定相続分で按分します。配偶者2億2,600万円は税率45%・控除額2,700万円で7,470万円です。
子の分:子は各1億1,300万円で税率40%・控除額1,700万円により2,820万円ずつ、合計1億3,110万円になります。
基礎控除の計算方法と法定相続人の数え方は、下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減/国税庁 No.4155 相続税の税率

5億円は配偶者の税額軽減の上限が1億6,000万円ではなくなる帯です。3億円までは相続人が配偶者と子なら上限は1億6,000万円でしたが、5億円では2億5,000万円まで広がります。
ところが上限が9,000万円も増えるのに、配偶者に全額を渡しても0円にはなりません。この帯でつまずく人が最も多いのがこの点です。
配偶者の税額軽減は、配偶者が取得した財産のうち「1億6,000万円」と「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多いほうまでについて、配偶者の相続税を0円にする制度です。
3億円までは法定相続分相当額が1億6,000万円に届かない構成があったため、その場合は1億6,000万円のほうが採用されていました。5億円になると事情が変わります。
配偶者の法定相続分は、誰と一緒に相続するかで変わります。子となら2分の1、父母となら3分の2、兄弟姉妹となら4分の3です。
| 家族構成 | 配偶者の法定相続分 | 法定相続分相当額 | 1億6,000万円との比較 | 実際の上限 |
|---|---|---|---|---|
| 配偶者+子(人数を問わない) | 1/2 | 2億5,000万円 | 法定相続分のほうが大きい | 2億5,000万円 |
| 配偶者+父母 | 2/3 | 3億3,333万3,333円 | 法定相続分のほうが大きい | 3億3,333万3,333円 |
| 配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 | 3億7,500万円 | 法定相続分のほうが大きい | 3億7,500万円 |
| 配偶者のみ | 全部 | 5億円 | 法定相続分のほうが大きい | 5億円 |
表の見方:3億円では配偶者と子のケースだけが1億6,000万円のままでした。5億円になると4つの構成すべてで法定相続分相当額のほうが大きくなります。
重要ポイント:「配偶者控除は1億6,000万円まで」という説明を見かけますが、5億円ではどの構成でも上限はそれより大きくなります。子がいる場合でも2億5,000万円まで非課税で取得できます。
計算ロジック:配偶者と子のケースでは5億円×1/2=2億5,000万円が法定相続分相当額です。これが1億6,000万円より大きいため上限になります。父母なら5億円×2/3、兄弟姉妹なら5億円×3/4です。
上限が1億6,000万円から法定相続分相当額に切り替わる金額は、相続人の構成ごとに決まっています。法定相続分相当額がちょうど1億6,000万円になる遺産額が境界です。
| 家族構成 | 切替が起きる遺産額 | 3億円のときの上限 | 5億円のときの上限 |
|---|---|---|---|
| 配偶者+子 | 3億2,000万円 超 | 1億6,000万円 | 2億5,000万円 |
| 配偶者+父母 | 2億4,000万円 超 | 2億円 | 3億3,333万3,333円 |
| 配偶者+兄弟姉妹 | 2億1,333万3,333円 超 | 2億2,500万円 | 3億7,500万円 |
表の見方:最も多い「配偶者と子」の構成では、遺産が3億2,000万円を超えて初めて上限が動きます。父母や兄弟姉妹が相続人なら、もっと早い段階から切り替わっています。
重要ポイント:3億円と5億円では配偶者に渡せる非課税枠が9,000万円違います。3億円の記事や早見表をそのまま5億円に当てはめると、渡せる額を過小に見積もることになります。
計算ロジック:配偶者と子の場合、遺産×1/2=1億6,000万円を解くと遺産は3億2,000万円です。父母なら遺産×2/3=1億6,000万円で2億4,000万円、兄弟姉妹なら遺産×3/4=1億6,000万円で2億1,333万3,333円になります。
配偶者の税額軽減の上限がいくらになるかの判定は、下記の記事で制度の全体像とあわせて解説しています。

家族構成別に、配偶者が5億円全額を相続したときに残る税額を一覧にしました。上限が2億5,000万円に広がっても、残りの2億5,000万円分には課税されます。
| 家族構成 | 相続税の総額 | 軽減の上限 | 配偶者が全額取得しても残る税額 |
|---|---|---|---|
| 配偶者+子1人 | 1億5,210万円 | 2億5,000万円 | 7,605万円 |
| 配偶者+子2人 | 1億3,110万円 | 2億5,000万円 | 6,555万円 |
| 配偶者+子3人 | 1億1,924万9,700円 | 2億5,000万円 | 5,962万4,850円 |
| 配偶者+子4人 | 1億1,000万円 | 2億5,000万円 | 5,500万円 |
| 配偶者+父母2人 | 1億3,986万6,300円 | 3億3,333万3,333円 | 4,662万2,100円 |
| 配偶者+兄弟姉妹1人 | 1億5,855万円 | 3億7,500万円 | 3,963万7,500円 |
| 配偶者のみ | 1億9,000万円 | 5億円 | 0円 |
表の見方:上限が大きい構成ほど残る税額が小さくなります。配偶者と兄弟姉妹の組み合わせは相続税の総額が最も大きい1億5,855万円ですが、上限が3億7,500万円あるため残るのは3,963万7,500円です。
重要ポイント:「配偶者が全部相続すれば相続税はかからない」と説明されることがありますが、5億円でそれが成り立つのは配偶者だけが相続人の場合だけです。
計算ロジック:配偶者の税額軽減は「相続税の総額×(控除対象になる額÷課税価格の合計額)」で計算します。
子2人の場合:控除対象は2億5,000万円までなので、1億3,110万円×2億5,000万円÷5億円=6,555万円が軽減され、差の6,555万円が残ります。
子がおらず、被相続人の父母も兄弟姉妹もすでに亡くなっている場合、法定相続人は配偶者1人だけになります。このケースは5億円でも相続税が0円です。
【なぜ0円になるか】
配偶者の法定相続分が全部になるため、税額軽減の上限も遺産の全額になります。基礎控除が3,600万円しかなくても、税額軽減がすべてを消します。
【注意すべき点】
0円でも申告は必要です。また配偶者が亡くなったときの二次相続では、相続人が兄弟姉妹や甥姪になり2割加算の対象になることがあります。
子がいない夫婦の場合、一次相続で0円になっても二次相続の負担が重くなります。配偶者が5億円を相続した後に亡くなり、相続人が兄弟姉妹1人だけなら、二次相続の税額は2億2,800万円です。
重要ポイント:子がいない夫婦こそ遺言と生前対策の効果が大きくなります。一次相続が0円になる分、対策の余地がそのまま二次相続の負担軽減につながります。
参照元:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減/国税庁 No.4157 相続税額の2割加算

1億円以下の帯では4つの方法のどれかで相続税を0円にできました。5億円ではすべてが届かず、自宅の土地による方法は3億円に続いて理論上も不可能です。ここでは何が必要になるかを数値で確認します。届かないと分かれば、次に何を考えるべきかがはっきりします。
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。これが5億円以上になる人数を求めます。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 | 課税遺産総額 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 3人(配偶者+子2人) | 4,800万円 | 4億5,200万円 | 課税される |
| 45人 | 3億円 | 2億円 | 課税される |
| 60人 | 3億9,000万円 | 1億1,000万円 | 課税される |
| 78人 | 4億9,800万円 | 200万円 | 課税される |
| 79人 | 5億400万円 | 0円 | 課税されない |
重要ポイント:5億円を人数だけで0円にするには相続人が79人必要です。3億円では45人、1億円では12人でした。実際にはありえない人数です。
養子縁組で人数を増やす方法もありますが、基礎控除の計算に算入できる養子は実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。
参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算/国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき
小規模宅地等の特例を使うと自宅の土地の評価が80%下がります。5億円ではこの方法が計算上どうやっても成立しません。
| 遺産総額 | 0円に必要な土地 | 財産に占める割合 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 1億円 | 6,500万円 | 65.0% | 成立する |
| 2億円 | 1億9,000万円 | 95.0% | 理論上は成立 |
| 3億円 | 3億1,500万円 | 105.0% | 不可能 |
| 5億円 | 5億6,500万円 | 113.0% | 不可能 |
計算ロジック:0円になる条件は「5億円-土地の評価額×80%≦基礎控除4,800万円」です。これを解くと土地の評価額は4億5,200万円÷0.8=5億6,500万円以上となり、財産総額の5億円を超えてしまいます。
重要ポイント:特例が使えないという意味ではありません。効果は5億円帯でも大きく、上限の330㎡まで使えば7,920万円の評価減になり、納税額は6,555万円から4,974万円まで下がります。0円には届かないというだけです。
面積の上限に注意:特例が使えるのは330㎡までです。5億円規模では土地の面積が330㎡を超えることが多く、超えた部分は通常どおり評価されます。
参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
生命保険の非課税枠、死亡退職金の非課税枠、養子縁組による基礎控除の拡大を組み合わせた効果を計算します。
| 段階 | 対策 | 課税価格 | 基礎控除 | 相続税の総額 |
|---|---|---|---|---|
| 対策なし | — | 5億円 | 4,800万円 | 1億3,110万円 |
| 第1段階 | 生命保険1,500万円(500万円×3人) | 4億8,500万円 | 4,800万円 | 1億2,472万5,000円 |
| 第2段階 | 養子1人(相続人4人)※保険なし | 5億円 | 5,400万円 | 1億1,924万9,700円 |
| 第3段階 | 生命保険2,000万円+養子1人 | 4億8,000万円 | 5,400万円 | 1億1,175万円 |
| 第4段階 | +死亡退職金2,000万円 | 4億6,000万円 | 5,400万円 | 1億424万9,400円 |
表の見方:第4段階は生命保険2,000万円・死亡退職金2,000万円・養子1人をすべて実行した状態です。課税価格は4,000万円下がりますが、基礎控除5,400万円との差がまだ4億600万円あります。
重要ポイント:0円には届きませんが、対策なしの1億3,110万円から1億424万9,400円まで2,685万600円減らせます。3億円帯の1,840万200円より効果が大きくなります。
計算ロジック:第4段階の課税価格4億6,000万円から基礎控除5,400万円を引いた4億600万円が課税遺産総額です。
内訳:配偶者2億300万円は税率45%・控除額2,700万円で6,435万円、子3人は各6,766万6,000円で1,329万9,800円ずつ、合計1億424万9,400円です。
配偶者の税額軽減を最大限に使う方法です。5億円では上限が2億5,000万円まで広がりますが、残る税額は6,555万円です。
3億円では上限が1億6,000万円で2,669万3,333円が残っていました。上限が9,000万円増えたにもかかわらず残る税額が増えるのは、遺産そのものが2億円増えて総額が上がるためです。
重要ポイント:この方法は一次相続だけを見れば効果があります。しかし二次相続まで含めると最も重い選択になります。配偶者と子2人なら通算2億1,765万円で、最も軽い分け方との差は1億778万2,400円です。
4つのルートを並べると、5億円で0円を狙うことに現実性がないことが分かります。
| ルート | 5億円で必要な条件 | 結果 |
|---|---|---|
| ①相続人の数 | 79人 | 非現実的 |
| ②自宅の土地 | 5億6,500万円(財産の113%) | 理論上不可能 |
| ③生前対策 | — | 1億424万9,400円が残る |
| ④配偶者に全額 | — | 6,555万円が残る(子2人の場合) |
重要ポイント:そこで5億円帯の論点は2つになります。「配偶者にいくら渡して通算を最小にするか」と「数千万円の納税資金をどう用意するか」です。
現実には複数の手段を重ねます。小規模宅地等の特例で7,920万円の評価減を取り、生前対策で4,000万円分の非課税枠を作れば、課税価格は3億8,080万円まで下がります。
このとき総額は7,637万9,400円です。0円ではありませんが、対策なしの1億3,110万円とは大きく違います。

5億円の相続税も計算の流れは他の金額帯と同じです。ただし5億円では配偶者の按分額が税率45%の区分に入るため、按分を誤ると差が大きく出ます。ここでは配偶者と子2人のケースで実際の計算を追います。
遺産5億円を配偶者と子2人が法定相続分どおりに相続する場合の計算です。
課税遺産総額を計算する
財産の合計から債務・葬式費用を引き、生命保険金などの非課税枠を差し引いて課税価格を出します。そこから基礎控除を引きます。
5億円 - 基礎控除4,800万円(3,000万円+600万円×3人)= 課税遺産総額4億5,200万円
⬇
法定相続分で按分して相続税の総額を出す
実際の分け方に関係なく、いったん法定相続分で分けたものとして各人の税額を計算し、合計します。
配偶者:4億5,200万円×1/2=2億2,600万円 → 税率45%・控除額2,700万円 → 7,470万円
子1人目:4億5,200万円×1/4=1億1,300万円 → 税率40%・控除額1,700万円 → 2,820万円
子2人目:同じく2,820万円
相続税の総額=1億3,110万円
⬇
実際に取得した割合で総額を割り振る
STEP2で出した総額1億3,110万円を、実際に取得した財産の割合で按分します。法定相続分どおりなら次のようになります。
配偶者:1億3,110万円×1/2=6,555万円
子1人目:1億3,110万円×1/4=3,277万5,000円
子2人目:3,277万5,000円
⬇
2割加算と税額控除を適用する
2割加算の対象者は1.2倍にしたうえで、配偶者の税額軽減などを差し引きます。配偶者の取得額2億5,000万円は上限2億5,000万円ちょうどなので全額が軽減されます。
配偶者:6,555万円 - 6,555万円= 0円
子2人:3,277万5,000円ずつ= 合計6,555万円
重要ポイント:この例では配偶者の取得額が上限ちょうどなので0円になりました。配偶者が2億5,000万円を超えて取得すると、超えた部分に対応する税額が配偶者にも発生します。
計算ロジック:相続税は「総額をいったん確定してから各人に割り振る」構造です。誰がいくら取得しても総額1億3,110万円は変わらず、変わるのは誰がいくら負担するかと、税額控除がいくら効くかだけです。
相続税の計算の全体像は、下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算/国税庁 No.4155 相続税の税率
複数の控除や加算が絡む場合、適用する順序が決まっています。2割加算は税額控除より先に適用します。
| 順序 | 適用するもの | 5億円での影響 |
|---|---|---|
| 1 | 相続税額の2割加算 | 兄弟姉妹1人なら1億9,000万円→2億2,800万円 |
| 2 | 贈与税額控除(暦年課税) | 加算された贈与の贈与税を差し引く |
| 3 | 配偶者の税額軽減 | 上限は構成により2.5億〜3.75億円(この帯の要) |
| 4 | 未成年者控除・障害者控除 | 10万円×年数 |
| 5 | 相次相続控除 | 10年以内の相次ぐ相続で効く |
| 6 | 外国税額控除 | 国外財産があれば |
| 7 | 相続時精算課税分の贈与税額控除 | 控除しきれない分は還付される |
重要ポイント:7の相続時精算課税分の贈与税額控除だけは、控除しきれない分が還付されます。他の控除は税額がゼロになるまでで、マイナスにはなりません。
参照元:国税庁 No.4157 相続税額の2割加算/国税庁 No.4168 相次相続控除
計算の前提になる財産の集計で漏れが出ると、その後の計算がすべて狂います。5億円規模では財産の種類が多く、集計そのものに数ヶ月かかることがあります。
集計で漏れやすい財産
生前贈与の加算期間については、令和6年(2024年)1月1日以降の贈与について3年から7年へ延長されました。ただし段階的な移行期間があるため、令和8年(2026年)12月31日以前に相続が発生した場合の加算期間は3年以内です。
| 相続が発生した時期 | 加算される贈与の期間 |
|---|---|
| 令和8年12月31日以前 | 相続開始前3年以内 |
| 令和9年1月1日〜令和12年12月31日 | 令和6年1月1日以降の贈与のうち、相続開始前3年を超える部分も順次加算 |
| 令和13年1月1日以降 | 相続開始前7年以内 |
重要ポイント:「生前贈与の加算は7年」と一律に説明されることがありますが、今の時点で相続が発生した場合の加算期間は3年以内です。7年に完全移行するのは令和13年以降です。
計算ロジック:加算される贈与のうち、相続開始前3年を超える部分については合計100万円までが加算対象から除かれます。また加算されるのは相続や遺贈で財産を取得した人が受けた贈与だけで、財産を受け取らない孫への贈与は原則として加算されません。
参照元:国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)/国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択

5億円で0円にできない以上、次の問いは「どこまで減らせるか」です。最も大きく効くのが配偶者にいくら渡すかの判断で、これだけで通算1億778万2,400円の差が出ます。
ここでは母の取得額を変えて、一次相続と二次相続を合わせた金額を並べます。
父が亡くなり、母と子2人が5億円を相続するケースで考えます。母の固有財産はなく、母が相続した財産はそのまま母の死亡時に子へ引き継がれるものとします。
【一次相続だけを見た場合】
母に多く渡すほど税額が下がります。ただし上限2億5,000万円を超えて渡しても一次相続の税額は6,555万円で止まり、それ以上は下がりません。
【二次相続まで見た場合】
母が相続した財産は母の死亡時にもう一度課税されます。二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、相続人が2人に減るため基礎控除も4,200万円に下がります。母に多く渡すほど二次相続が重くなります。
母に全額を渡すと通算2億1,765万円になり、これが最も重い選択です。一次相続の6,555万円に、二次相続の1億5,210万円が上乗せされるためです。
母の取得額を変えたときの、一次相続と二次相続を合わせた金額です。自分のケースがどの行にあたるかを確認してください。
| 母の取得額 | 子2人の取得額 | 一次相続 | 二次相続 | トータル |
|---|---|---|---|---|
| 0円 | 5億円 | 1億3,110万円 | 0円 | 1億3,110万円 |
| 5,000万円 | 4億5,000万円 | 1億1,799万円 | 80万円 | 1億1,879万円 |
| 1億円 | 4億円 | 1億488万円 | 770万円 | 1億1,258万円 |
| 1億2,500万円 | 3億7,500万円 | 9,832万5,000円 | 1,260万円 | 1億1,092万5,000円 |
| 1億4,200万円 | 3億5,800万円 | 9,386万7,600円 | 1,600万円 | 1億986万7,600円(最小) |
| 1億5,000万円 | 3億5,000万円 | 9,177万円 | 1,840万円 | 1億1,017万円 |
| 1億7,500万円 | 3億2,500万円 | 8,521万5,000円 | 2,590万円 | 1億1,111万5,000円 |
| 2億円 | 3億円 | 7,866万円 | 3,340万円 | 1億1,206万円 |
| 2億5,000万円(法定相続分) | 2億5,000万円 | 6,555万円 | 4,920万円 | 1億1,475万円 |
| 3億円 | 2億円 | 6,555万円 | 6,920万円 | 1億3,475万円 |
| 4億円 | 1億円 | 6,555万円 | 1億920万円 | 1億7,475万円 |
| 5億円(全額) | 0円 | 6,555万円 | 1億5,210万円 | 2億1,765万円(最大) |
表の見方:母の取得額が4,200万円以下なら二次相続の基礎控除に収まるため二次相続は0円です。2億5,000万円を超えると一次相続の税額が6,555万円で止まる一方、二次相続だけが増え続けます。
重要ポイント:最小の1億986万7,600円と最大の2億1,765万円の差は1億778万2,400円です。分け方を決めるだけで、家族全体で納める税金がこれだけ変わります。
計算ロジック:一次相続は「相続税の総額1億3,110万円×(1-母の控除対象額÷5億円)」で求まります。母が1億4,200万円なら1億3,110万円×3億5,800万円÷5億円=9,386万7,600円です。
二次相続の計算:母の財産1億4,200万円から基礎控除4,200万円を引いた1億円が課税遺産総額です。子2人が各5,000万円ずつ相続するので税率20%・控除額200万円を適用して800万円ずつ、合計1,600万円になります。
判定表から3つのことが読み取れます。
| 分け方 | トータル税額 | 最小との差 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 母1億4,200万円(最適) | 1億986万7,600円 | — | 最も軽い |
| 母1億5,000万円 | 1億1,017万円 | +30万2,400円 | ほぼ同じ |
| 母1億2,500万円 | 1億1,092万5,000円 | +105万7,400円 | ほぼ同じ |
| 母2億円 | 1億1,206万円 | +219万2,400円 | やや重い |
| 母2億5,000万円(法定相続分) | 1億1,475万円 | +488万2,400円 | やや重い |
| 母0円 | 1億3,110万円 | +2,123万2,400円 | 重い |
| 母5億円(全額) | 2億1,765万円 | +1億778万2,400円 | 最も重い |
重要ポイント:母1億2,500万円から2億円の範囲はどれを選んでも220万円以内の差しかありません。1円単位で最適化する意味はなく、避けるべきなのは「母に全額」という選択です。
法定相続分どおりの母2億5,000万円は1億1,475万円で、最小との差は488万2,400円です。5億円では法定相続分より1億円ほど少なく渡したほうが軽くなります。
計算ロジック:母の取得額が増えると一次相続は下がりますが、二次相続はそれ以上のペースで増えます。母の財産が4,200万円を超えたところから二次相続が発生し、税率区分が上がるにつれて増加幅が大きくなるためです。
子が1人になると二次相続の基礎控除が3,600万円に減り、1人で全額を相続するため税率区分も上がります。その結果、分け方による差はさらに大きくなります。
| 母の取得額 | 一次相続 | 二次相続 | トータル |
|---|---|---|---|
| 0円 | 1億5,210万円 | 0円 | 1億5,210万円 |
| 1億円 | 1億2,168万円 | 1,220万円 | 1億3,388万円 |
| 1億3,600万円 | 1億1,072万8,800円 | 2,300万円 | 1億3,372万8,800円(最小) |
| 1億5,000万円 | 1億647万円 | 2,860万円 | 1億3,507万円 |
| 2億円 | 9,126万円 | 4,860万円 | 1億3,986万円 |
| 2億5,000万円(法定相続分) | 7,605万円 | 6,930万円 | 1億4,535万円 |
| 5億円(全額) | 7,605万円 | 1億9,000万円 | 2億6,605万円(最大) |
表の見方:子1人なら最小は母1億3,600万円で1億3,372万8,800円です。最小と最大の差は1億3,232万1,200円で、子2人のケース(1億778万2,400円)より大きくなります。
重要ポイント:子の人数が少ないほど「母に全額」の不利が大きくなります。二次相続の基礎控除が小さく、1人が全額を相続するため税率区分も上がるためです。
判定表は「母の固有財産が0円」「母の財産が減らない」という前提です。この前提が変わると最適な取得額も変わります。
【母に多く渡したほうがよいケース】
母の生活費や介護費用で財産が目減りする見込みがある場合、母が自宅に住み続ける必要がある場合、二次相続までに母が生前贈与で財産を減らせる場合です。
【子に多く渡したほうがよいケース】
母に固有の財産がすでにある場合、母の余命が長く二次相続までの期間が読めない場合、子に納税資金がある場合です。
5億円規模では母がすでに固有の財産を持っていることがほとんどで、その場合は二次相続の課税価格がさらに増えます。母の固有財産が2億円あるなら、判定表の二次相続の欄はすべてその分だけ重くなります。
また母が自宅を相続すれば小規模宅地等の特例を確実に使えますが、二次相続では同居していない子は「家なき子」の要件を満たさなければ特例が使えません。二次相続で特例が使えなくなる可能性を織り込む必要があります。
一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合は相次相続控除が使えます。5億円規模では一次相続で必ず納税が生じるため、この控除が大きく効きます。
母の年齢や健康状態から二次相続が近いと見込まれるなら、あえて母の取得額を増やして相次相続控除を効かせるという判断もあります。数値だけで決められない部分です。
二次相続を踏まえた分け方の考え方は、下記の記事で対策の全体像を解説しています。

子が1人の場合は二次相続の負担が特に重くなります。下記の記事で兄弟がいる場合との差を解説しています。

参照元:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減/国税庁 No.4168 相次相続控除

同じ5億円でも財産の中身によって税額は大きく変わります。さらに5億円帯では「納税額を払える現金があるか」が最も現実的な問題になります。ここでは配偶者と子2人という同じ家族構成で、財産構成だけを変えた4パターンを比較します。
4つのパターンはすべて次の条件で計算しています。
【共通の前提】
重要ポイント:小規模宅地等の特例は居住用330㎡と貸付事業用200㎡を無条件に併用できるわけではありません。自宅と賃貸物件の両方がある場合は、限度面積の調整計算が必要になります。
財産のすべてが現金・預貯金で、評価を下げる余地がないケースです。5億円帯で最も税額が重くなる財産構成です。
| 財産の種類 | 評価額 | 評価減 | 課税価格 |
|---|---|---|---|
| 現金・預貯金 | 5億円 | なし | 5億円 |
| 課税価格の合計 | 5億円 | ||
課税価格5億円から基礎控除4,800万円を引いた4億5,200万円が課税遺産総額です。相続税の総額は1億3,110万円、配偶者の税額軽減を適用した後の納税額は6,555万円になります。
重要ポイント:税額は最も重くなりますが、納税資金には困りません。5億円帯では税額の大きさより現金があるかどうかのほうが実務的な問題になります。
自宅の土地9,900万円・建物5,000万円・現金3億5,100万円という構成です。特例を上限いっぱいまで使えるケースです。
| 財産の種類 | 評価額 | 評価減 | 課税価格 |
|---|---|---|---|
| 自宅の土地(330㎡) | 9,900万円 | 80%減(7,920万円) | 1,980万円 |
| 自宅の建物 | 5,000万円 | なし | 5,000万円 |
| 現金・預貯金 | 3億5,100万円 | なし | 3億5,100万円 |
| 課税価格の合計 | 4億2,080万円 | ||
課税価格4億2,080万円から基礎控除4,800万円を引いた3億7,280万円が課税遺産総額です。相続税の総額は9,948万円、納税額は4,974万円になります。パターンAと比べて1,581万円軽くなります。
計算ロジック:課税遺産総額3億7,280万円を法定相続分で按分すると配偶者1億8,640万円・子各9,320万円です。配偶者は税率40%・控除額1,700万円で5,756万円、子は税率30%・控除額700万円で2,096万円ずつ、合計9,948万円になります。
賃貸アパートの土地2億円(200㎡)・建物1億円・現金2億円という構成です。賃貸用の不動産は自用の場合より評価が大きく下がります。
| 財産の種類 | 自用の評価額 | 評価減 | 課税価格 |
|---|---|---|---|
| 賃貸アパートの土地(200㎡) | 2億円 | 貸家建付地で18%減 → さらに貸付事業用宅地で50%減 | 8,200万円 |
| 賃貸アパートの建物 | 1億円 | 貸家として30%減 | 7,000万円 |
| 現金・預貯金 | 2億円 | なし | 2億円 |
| 課税価格の合計 | 3億5,200万円 | ||
課税価格3億5,200万円から基礎控除4,800万円を引いた3億400万円が課税遺産総額です。相続税の総額は7,540万円、納税額は3,770万円になります。
表の見方:貸家建付地の評価減は「借地権割合60%×借家権割合30%×賃貸割合100%=18%」で計算しています。2億円×82%=1億6,400万円としたうえで、貸付事業用宅地等の特例(200㎡まで50%減)を適用して8,200万円になります。
重要ポイント:パターンAより2,785万円軽くなり、4パターンで最も税額が小さくなります。ただし賃貸物件は空室リスク・修繕費・管理の手間があり、相続後すぐに現金化できるものでもありません。
併用の注意:自宅にも賃貸物件にも小規模宅地等の特例を使いたい場合、居住用330㎡と貸付事業用200㎡はそのまま足し合わせられません。限度面積の調整計算により、どちらかを優先することになります。
自社株3億5,000万円・自宅の土地5,000万円・建物3,000万円・有価証券5,000万円・現金2,000万円という構成です。5億円帯で最も深刻な問題が起きるのがこのパターンです。
| 財産の種類 | 評価額 | 評価減 | 課税価格 |
|---|---|---|---|
| 自社株(非上場株式) | 3億5,000万円 | なし | 3億5,000万円 |
| 自宅の土地(165㎡) | 5,000万円 | 80%減(4,000万円) | 1,000万円 |
| 建物 | 3,000万円 | なし | 3,000万円 |
| 有価証券 | 5,000万円 | なし | 5,000万円 |
| 現金・預貯金 | 2,000万円 | なし | 2,000万円 |
| 課税価格の合計 | 4億6,000万円 | ||
課税価格4億6,000万円から基礎控除4,800万円を引いた4億1,200万円が課税遺産総額です。相続税の総額は1億1,410万円、納税額は5,705万円になります。
しかし手元の現金は2,000万円しかなく、3,705万円が不足します。有価証券5,000万円を売却しても、売却益に所得税・住民税がかかるため手取りは目減りします。
重要ポイント:自社株は財産の7割を占めますが、非上場株式は市場で売れません。会社に買い取ってもらう方法もありますが、会社に資金がなければ成立せず、みなし配当課税の問題も生じます。
計算ロジック:課税遺産総額4億1,200万円を按分すると配偶者2億600万円・子各1億300万円です。配偶者は税率45%・控除額2,700万円で6,570万円、子は税率40%・控除額1,700万円で2,420万円ずつ、合計1億1,410万円になります。
4つのパターンを並べると、5億円帯で本当に問われているのが何かが分かります。
| パターン | 課税価格 | 相続税の総額 | 納税額 | 手元の現金 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| A 現金のみ | 5億円 | 1億3,110万円 | 6,555万円 | 5億円 | 足りる |
| B 自宅330㎡+現金 | 4億2,080万円 | 9,948万円 | 4,974万円 | 3億5,100万円 | 足りる |
| C 賃貸中心 | 3億5,200万円 | 7,540万円 | 3,770万円 | 2億円 | 足りる |
| D 自社株中心 | 4億6,000万円 | 1億1,410万円 | 5,705万円 | 2,000万円 | 3,705万円不足 |
表の見方:税額が最も軽いのはパターンCの3,770万円、最も重いのはパターンAの6,555万円で、差は2,785万円です。しかし実際に困るのは税額が2番目に重いパターンDです。
重要ポイント:税額を計算して終わりにせず、その金額を10ヶ月以内に現金で用意できるかまで必ず確認してください。5億円帯では納税額が数千万円になり、財産の中身によっては現金が足りません。
現金が足りない場合の選択肢は4つあります。それぞれ要件と負担が違うため、申告期限までに判断する必要があります。
| 選択肢 | 内容 | 負担・注意点 |
|---|---|---|
| ①財産の売却 | 不動産や有価証券を売って現金化する | 売却益に所得税・住民税。申告期限から3年以内なら取得費加算の特例 |
| ②延納 | 担保を提供して分割で納める | 最長20年。利子税がかかる。不動産等の割合で期間が変わる |
| ③物納 | 相続した財産そのもので納める | 延納でも納められない場合に限る。順位と要件が厳しい |
| ④借入 | 金融機関から借りて納税する | 金利負担。延納の利子税と比較して判断する |
重要ポイント:物納は「延納によっても金銭で納付することが困難」な場合にしか認められません。いきなり物納を選ぶことはできず、まず延納の可否を判定します。
期限の注意:延納も物納も申告期限までに申請書を提出しなければ選べません。期限を過ぎてから「払えない」と気づいても手遅れです。
自社株が中心の場合は、この4つに加えて事業承継税制による納税猶予という選択肢があります。ただし制度を使うには期限内の手続きが必要です。
どの方法を選ぶべきかの判断は、下記の記事で3つを比較して解説しています。

売却して納税する場合は取得費加算の特例が使えます。計算方法は下記の記事で解説しています。

小規模宅地等の特例の要件は4つの類型ごとに違います。併用の限度面積の調整も含めて下記の記事で確認してください。

参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)/国税庁 No.4614 貸家建付地の評価/国税庁 No.4211 相続税の延納/国税庁 No.4214 相続税の物納

5億円では0円に届きませんが、控除・特例と生前対策を積み上げれば納税額を半分近くまで下げられます。ここでは使える制度を一覧で整理したうえで、生前対策の効果を段階で確認します。自社株がある場合は期限が迫っている制度があるため、あわせて説明します。
5億円帯で実際に効果が出る制度を、効果の大きい順に並べました。
| 制度 | 内容 | 5億円帯での効果 | 申告 |
|---|---|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | 1億6,000万円または法定相続分相当額まで | 構成により上限が2.5億〜3.75億円になる | 必要 |
| 事業承継税制(特例措置) | 自社株にかかる相続税を100%猶予 | 自社株が多いケースでは効果が最大 | 必要 |
| 小規模宅地等の特例(居住用) | 330㎡まで評価額を80%減 | 上限まで使えば7,920万円の減額 | 必要 |
| 小規模宅地等の特例(貸付事業用) | 200㎡まで評価額を50%減 | 賃貸物件の評価が下がる | 必要 |
| 基礎控除 | 3,000万円+600万円×法定相続人の数 | 相続人3人で4,800万円 | — |
| 生命保険金の非課税枠 | 500万円×法定相続人の数 | 相続人3人で1,500万円 | — |
| 死亡退職金の非課税枠 | 500万円×法定相続人の数 | 相続人3人で1,500万円 | — |
| 相次相続控除 | 10年以内に相次いで相続があった場合 | 5億円帯では一次で必ず納税があるため効く | 必要 |
| 取得費加算の特例 | 申告期限から3年以内に売却した場合 | 納めた相続税を取得費に加算できる | 必要 |
| 債務控除・葬式費用 | 借入金・未払医療費・葬儀費用を差し引く | 課税価格そのものが下がる | — |
表の見方:「申告」欄が「必要」の制度は、申告書を提出しなければ適用されません。5億円帯では配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例、そして自社株があれば事業承継税制の3つで税額の大半が動きます。
重要ポイント:取得費加算の特例は5億円帯で特に効きます。納税資金を作るために不動産や株式を売る場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できるため、売却益にかかる税金が軽くなります。
控除と特例の全体像は、下記の記事で一覧にまとめています。

参照元:国税庁 No.4168 相次相続控除/国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務/国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
生前対策の効果をあらためて確認します。0円にならないことと、対策に意味がないことは別です。
| 段階 | 対策 | 相続税の総額 | 対策なしとの差 |
|---|---|---|---|
| 対策なし | — | 1億3,110万円 | — |
| 第1段階 | 生命保険1,500万円 | 1億2,472万5,000円 | △637万5,000円 |
| 第2段階 | 養子1人(保険なし) | 1億1,924万9,700円 | △1,185万300円 |
| 第3段階 | 生命保険2,000万円+養子1人 | 1億1,175万円 | △1,935万円 |
| 第4段階 | +死亡退職金2,000万円 | 1億424万9,400円 | △2,685万600円 |
重要ポイント:4つを積んでも0円には届きませんが、2,685万600円を減らせます。3億円帯の1,840万200円より効果が大きくなります。財産が大きいほど非課税枠を使う価値が上がるためです。
さらに小規模宅地等の特例を重ねれば効果は大きくなります。自宅の土地9,900万円に特例を使い、生前対策4つも実行すれば、課税価格は3億8,080万円まで下がって総額は7,637万9,400円になります。
計算ロジック:課税価格5億円から小規模宅地の減額7,920万円と非課税枠4,000万円を引くと3億8,080万円です。基礎控除5,400万円(相続人4人)を引いた3億2,680万円が課税遺産総額になります。
効果の大きさ:対策なしの1億3,110万円が7,637万9,400円まで下がります。5,472万600円の差です。
養子縁組の効果とリスクは下記の記事で詳しく解説しています。

生命保険を使った対策の具体的な組み方は、下記の記事が参考になります。

参照元:国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金/国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
会社を経営していて自社株を持っている場合、事業承継税制の特例措置を使えば自社株にかかる相続税の全額が猶予されます。5億円帯で最も効果が大きい制度ですが、期限があります。
特例措置の期限(2026年8月時点)
実行期限まで残り1年4ヶ月ほどしかありません。贈与で使う場合は期限内に贈与を完了させる必要があり、相続で使う場合はその期間内に相続が発生することが前提になります。
| 比較項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 対象となる株式 | 議決権株式の2/3まで | 全株式(上限なし) |
| 猶予される割合 | 相続税の80% | 相続税の100% |
| 後継者の数 | 1人 | 最大3人 |
| 計画の提出 | 不要 | 特例承継計画が必要 |
| 実行期限 | なし | 令和9年12月31日 |
表の見方:期限を過ぎると一般措置しか使えません。一般措置では猶予されるのは議決権株式の3分の2までかつ税額の80%なので、猶予されない部分の納税資金が必要になります。
重要ポイント:猶予であって免除ではありません。後継者が株式を譲渡したり事業をやめたりすると猶予が打ち切られ、利子税とあわせて納付することになります。長期にわたる継続要件があるため、使うかどうかは慎重な判断が必要です。
制度の要件・手続き・打ち切りリスクは下記の記事で詳しく解説しています。

自社株そのものの評価方法は、下記の記事で計算手順を解説しています。

会社経営者の相続対策を全体として組み立てる場合は、下記の記事が参考になります。

参照元:国税庁 No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)/国税庁 No.4638 取引相場のない株式の評価
5億円帯では効果が小さい対策や、リスクを伴う対策もあります。やる前に効果の大きさを確認してください。
| 対策 | 5億円帯での効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 暦年贈与(年110万円) | 子2人へ10年で2,200万円を移せば税額は935万円下がる | 相続開始前の一定期間内の贈与は加算される |
| 養子縁組 | 基礎控除+非課税枠で1,600万円分 | 実子がいれば1人まで。節税のみを目的とした縁組は否認されうる |
| 生命保険 | 非課税枠の上限まで確実に効く | 枠を超える部分は課税対象 |
| 孫への贈与 | 加算対象外なので効果が大きい | 孫が遺贈や保険金を受け取ると加算対象になる |
| 不動産の購入 | 評価が下がるが換金性が落ちる | 納税資金が減るため5億円帯では特に注意 |
| 相続時精算課税 | 税額を下げる効果はない(期間の制限なく全額加算) | 値上がりする財産の移転には有効 |
重要ポイント:5億円帯で特に注意が要るのは不動産購入です。評価は下がりますが、現金が減って納税資金が不足するという別の問題を生みます。パターンDで見たとおり、現金がなければ税額が軽くても行き詰まります。
計算ロジック:暦年贈与の効果は「移した金額×限界税率」で概算します。5億円・配偶者と子2人の場合、移した金額の約42.5%が減額になります。2,200万円なら935万円です。3億円帯では35%でした。
相続開始の直前に不動産を購入して直後に売却するような場合は、財産評価基本通達の総則6項によって評価が否認されることがあります。実際に住む・貸すという実態が必要です。
参照元:国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)/国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
対策には準備期間が必要なものがあります。5億円規模では財産の把握そのものに時間がかかります。
生命保険への加入・納税資金の確認
一時払終身保険なら加入して即座に非課税枠が使えます。同時に、想定される納税額に対して現金がいくら足りないかを計算しておきます。
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財産の棚卸し・自社株の評価・養子縁組・遺言の作成
5億円規模では非上場株式・国外財産・貸付金など評価に専門的な判断が要る財産が含まれます。全体像の把握に数ヶ月かかることを見込んでください。
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事業承継税制を使うなら株式の移転を完了させる
特例措置の実行期限は令和9年12月31日です。自社株を持っていて後継者が決まっているなら、この期限から逆算して計画の提出と贈与の実行を進めます。
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暦年贈与・納税資金の積み立て
相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算されるため、効果を出すには3年を超える期間が必要です。あわせて数千万円の納税資金を計画的に用意します。
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特例の適用・配偶者の取得額・納税方法の判断
申告期限は10ヶ月です。この期間内に特例の適用、配偶者にいくら渡すか、そして納税資金が足りない場合の売却・延納・物納の判断をします。
重要ポイント:延納や物納を選ぶ場合は申告期限までに申請書を提出しなければなりません。期限を過ぎてから「払えない」と気づいても選べません。
退職金の非課税枠の詳細や弔慰金との区別は、下記の記事で解説しています。


5億円が相続税の制度の中でどんな位置にあるのかを、隣の金額帯と並べて確認します。5億円は配偶者の控除の上限がすべての構成で法定相続分相当額に切り替わり終える帯です。
遺産に対して実際に納める税額の割合を、金額帯ごとに計算しました。配偶者と子2人が法定相続分どおりに相続する前提です。
| 遺産総額 | 相続税の総額 | 納税額 | 実効税率 | 1つ下の帯との差 |
|---|---|---|---|---|
| 1億円 | 630万円 | 315万円 | 3.15% | — |
| 2億円 | 2,700万円 | 1,350万円 | 6.75% | +3.60pt |
| 3億円 | 5,720万円 | 2,860万円 | 9.53% | +2.78pt |
| 4億円 | 9,220万円 | 4,610万円 | 11.53% | +2.00pt |
| 5億円 | 1億3,110万円 | 6,555万円 | 13.11% | +1.58pt |
| 6億円 | 1億7,360万円 | 8,680万円 | 14.47% | +1.36pt |
| 10億円 | 3億5,620万円 | 1億7,810万円 | 17.81% | +3.34pt |
表の見方:実効税率は「実際に納める税額÷遺産総額」です。相続税の税率表は10%から55%まで8段階ですが、基礎控除と配偶者の税額軽減があるため、実際の負担率はそれよりずっと低くなります。
重要ポイント:3億円の9.53%から5億円の13.11%へ、実効税率は1.4倍になります。財産が1.67倍になると納税額は2.3倍(2,860万円→6,555万円)です。
計算ロジック:5億円では配偶者の按分額が2億2,600万円となり税率45%の区分に入ります。3億円では1億2,600万円で税率40%でした。累進税率のため財産が増えるほど負担率が上がります。
金額帯ごとに何が変わるかを並べます。
| 遺産総額 | 配偶者に全額 | 自宅の土地で0円 | 配偶者の控除の上限 |
|---|---|---|---|
| 1億円 | 0円 | 財産の65%で成立 | 1億6,000万円 |
| 1億6,000万円 | 0円(ここまで) | 財産の87.5%で成立 | 1億6,000万円 |
| 2億円 | 540万円が残る | 財産の95%で成立 | 1億6,000万円(全構成) |
| 2億1,334万円 | — | — | 兄弟姉妹なら切替が始まる |
| 2億4,000万円 | — | — | 父母なら切替が始まる |
| 3億円 | 2,669万3,333円が残る | 財産の105%で不可能 | 子は1億6,000万円のまま |
| 3億2,000万円 | — | — | 子も切替が始まる |
| 5億円 | 6,555万円が残る | 財産の113%で不可能 | 全構成が法定相続分相当額(2.5億〜3.75億円) |
表の見方:3億円では相続人の構成によって上限が1億6,000万円のままか法定相続分相当額かに分かれていました。5億円ではその切替がすべての構成で完了しています。
重要ポイント:5億円は「配偶者の控除の枠が最も大きくなる帯」であると同時に「それでも0円にできない帯」です。枠が広がったことに安心して全額を渡すと、通算では最も重い選択になります。
財産が増えると相続税がいくら増えるかを、配偶者と子2人のケースで確認します。
| 遺産総額 | 相続税の総額 | 1つ下の帯との差 | 実際の納税額 |
|---|---|---|---|
| 3億円 | 5,720万円 | — | 2,860万円 |
| 4億円 | 9,220万円 | +3,500万円 | 4,610万円 |
| 5億円 | 1億3,110万円 | +3,890万円 | 6,555万円 |
| 6億円 | 1億7,360万円 | +4,250万円 | 8,680万円 |
| 10億円 | 3億5,620万円 | +1億8,260万円 | 1億7,810万円 |
重要ポイント:4億円から5億円で3,890万円、5億円から6億円で4,250万円と、財産が1億円増えるごとに税額が4,000万円前後増えます。対策の価値もそれに比例して上がります。
隣の金額帯の詳しい試算は、それぞれの記事で確認できます。3億円のケースは下記の記事で解説しています。

2億円は配偶者に全部渡しても0円にならない最初の帯です。下記の記事で確認できます。

10億円になると最高税率55%の区分に入ります。下記の記事で確認できます。

参照元:国税庁 No.4155 相続税の税率/国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減

5億円帯で実際に起こりやすい失敗を3つ挙げます。いずれも数千万円から1億円規模の損失につながります。どれも事前に確認しておけば避けられます。
父が亡くなり、母と子2人が5億円を相続したケースです。「配偶者の税額軽減の上限は法定相続分の2億5,000万円まで広がるから、母が全部相続すれば0円になる」という前提で遺産分割協議をまとめました。
何が起きたか
対策:分割協議の前に配偶者の税額軽減の上限を確認してください。上限は「1億6,000万円」と「法定相続分相当額」の多いほうで、遺産5億円で子がいるなら2億5,000万円です。
重要ポイント:上限が大きくなることと0円になることは別です。5億円で0円になるのは配偶者だけが相続人の場合に限られます。相続人が父母や兄弟姉妹なら上限はさらに大きくなりますが、それでも全額渡せば税額は残ります。
母と子2人が5億円を相続したケースです。一次相続の納税額を最小にするため、母が全額を相続しました。
【一次相続】
母が5億円を相続し、配偶者の税額軽減で1億3,110万円のうち6,555万円が軽減されました。納税額は6,555万円でした。
【二次相続】
母が8年後に亡くなり、5億円がそのまま子2人へ引き継がれました。相続人は子2人で基礎控除は4,200万円、相続税は1億5,210万円でした。通算2億1,765万円です。
【母1億4,200万円にしていれば】
一次9,386万7,600円+二次1,600万円=1億986万7,600円で済みました。差は1億778万2,400円です。
対策:一次相続の分割を決める段階で二次相続まで含めた試算をしてください。5億円で子2人なら母の取得額は1億4,000万円前後が最も軽くなります。
なお一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合は相次相続控除が使えます。上のケースでは8年後だったため、一次相続で母が納めた6,555万円の一部が二次相続から差し引かれます。
重要ポイント:母の年齢や健康状態から二次相続が近いと見込まれる場合は、あえて母の取得額を増やして相次相続控除を効かせるという判断もあります。判定表の数値は「母の財産が減らない」前提なので、実際の状況にあわせた試算が必要です。
会社を経営していた父が亡くなり、財産の内訳が自社株3億5,000万円・不動産8,000万円・有価証券5,000万円・現金2,000万円というケースです。納税額は5,705万円でした。
何が起きたか
対策:自社株がある場合は財産の評価に数ヶ月かかることを前提に動いてください。事業承継税制の特例措置を使うには事前に特例承継計画の提出が必要で、株式の移転も令和9年12月31日までに終える必要があります。
重要ポイント:自社株は財産としては大きくても納税には使えません。相続財産の評価額が大きいほど税額は増えるのに、換金できないという矛盾が起きます。生前に納税資金を別途用意しておくか、事業承継税制の準備を進めておくかの二択になります。
5億円の相続で確認すべき項目を並べました。相続が発生した後でも、生前対策の段階でも使えます。
重要ポイント:5億円帯で最も見落とされやすいのは納税資金です。税額を計算して終わりにせず、その金額を10ヶ月以内に現金で用意できるかまで確認してください。
財産の規模が大きいほど税務調査の対象になりやすい傾向があります。申告書の精度と、根拠を示せる資料の整備が重要になります。
税務調査で何を確認されるかは、下記の記事で実態を解説しています。

参照元:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告/国税庁 No.4205 相続税の申告と納税

5億円の相続は、税理士の判断で結果が1億円以上変わる金額帯です。
配偶者にいくら渡すかの設計、小規模宅地等の特例をどの土地に使うか、自社株や土地の評価、そして納税資金の作り方まで、いずれも実務経験の差が結果に直結します。複数の税理士から見積りを取って比較してください。
税理士は全員が相続税に精通しているわけではありません。5億円規模になると非上場株式の評価や納税資金の設計が必要になり、扱った経験のない税理士では対応できないことがあります。
5億円の相続で実務経験の差が出るポイント
具体的な例で差の大きさを示します。同じ5億円の相続で、A税理士は2億1,765万円、B税理士は1億986万7,600円という結果になることがあります。配偶者と子2人のケースです。
| — | A税理士 | B税理士 |
|---|---|---|
| 配偶者の取得額の提案 | 「上限が2.5億円まで広がるので全額でよい」 | 二次相続まで試算して1億4,200万円を提案 |
| 一次相続 | 6,555万円 | 9,386万7,600円 |
| 二次相続 | 1億5,210万円 | 1,600万円 |
| 通算 | 2億1,765万円 | 1億986万7,600円 |
重要ポイント:この差1億778万2,400円は税理士報酬(5億円規模なら200万円前後)の50倍以上です。報酬の安さで選ぶより、提案の中身で選ぶほうが手元に残る金額は大きくなります。
計算ロジック:A税理士の提案は一次相続だけを見れば6,555万円で最小です。しかし母が相続した5億円は母の死亡時にもう一度課税され、基礎控除4,200万円を引いた4億5,800万円に対して1億5,210万円がかかります。
見積りを取ったとき、金額だけでなく提案の中身を比べてください。次の3点で実務力が判定できます。
判定ポイント1:二次相続まで試算しているか/「上限が広がるので全額で」と言う事務所と、「母1億4,200万円なら1億986万円、全額なら2億1,765万円」と数字を出す事務所があります。→ 後者は5億円帯の設計に慣れています。
判定ポイント2:納税資金の提案があるか/見積りの段階で「納税額に対して現金が足りるか」を確認してくる事務所かどうかを見てください。5億円帯では税額の計算より納税資金の確保のほうが切実な問題になります。→ 延納・物納の申請期限に触れる事務所は実務に慣れています。
判定ポイント3:土地・自社株の評価の進め方/見積りに「現地調査」「測量図の確認」「不整形地補正の検討」が明記されているか、非上場株式があるなら評価方式の選択に触れているかを確認してください。→ 5億円規模では土地の評価が1割違えば税額が数百万円動きます。
生前対策の相談なら、判定ポイント1を「対策の効果を金額で示したか」に置き換えて比べてください。「生命保険がおすすめです」で終わる事務所と、「4つ積めば2,685万円減ります」と数字を出す事務所では、実行後の結果が変わります。
5億円の相続を自分だけで進めた場合に起こりうることを整理します。
相談しないまま進めたときのリスク
特に起きやすいのは「税額の計算で終わってしまい、納税資金の確認をしない」というケースです。5億円帯では数千万円を10ヶ月以内に現金で用意する必要があります。
複数の税理士から見積りを取る流れは4つのステップです。相続開始から7ヶ月以内に依頼先を決めておくと申告期限に余裕が生まれます。
相続の概要を整理する
被相続人の資産内容(現金・不動産・有価証券・非上場株式)と概算額、相続人の構成と年齢、遺言の有無を整理します。5億円帯では土地と自社株の評価が結果を左右するため、固定資産税の納税通知書・測量図・決算書を用意してください。
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一括見積り・相談サービスに依頼する
希望内容(相続税申告・相続税の節税・確定申告・準確定申告など)を明記し、相続税の対応実績がある税理士3〜5社へ同時に打診します。所有している不動産があれば所在地・広さを記載してください。
財産の種類や相続人の人数はできるだけ正確に伝えると、見積りの精度が上がります。フォームの記入は5分程度で終わります。
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見積りと初回相談を受ける
各税理士から「提案内容」「試算した相続税額」「報酬額」が記載された見積りが届きます。気になる事務所と初回相談を実施し、上の3つの判定ポイントを実際に質問して確認してください。
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税理士を選定・正式依頼する
「提案内容の質」「説明の丁寧さ」「報酬の納得性」で最適な事務所を選びます。相続開始から7ヶ月以内に決定すれば、資料収集・分割協議・納税資金の準備に必要な時間を確保できます。
重要ポイント:5億円規模では財産の棚卸しだけで数ヶ月かかります。依頼が遅れると納税資金の手当てが間に合わなくなります。
法定相続人がいる場合の最大は、兄弟姉妹1人または孫1人が相続するケースの2億2,800万円です。子1人のみなら1億9,000万円で、2割加算がない分だけ軽くなります。
最も重いのは法定相続人が1人もおらず、遺言で第三者に遺贈するケースです。基礎控除が3,000万円しかなく2割加算もあるため2億3,160万円になります。
「5億円の相続税は最高38%」と書かれた資料もありますが、それは相続人が子1人の場合の負担率です。兄弟姉妹1人なら45.6%、法定相続人がいない遺贈なら46.32%に達します。
なりません。配偶者と子なら上限は法定相続分相当額の2億5,000万円なので、5億円全額を相続すると6,555万円(子2人)/7,605万円(子1人)が残ります。
5億円では上限が1億6,000万円ではなく法定相続分相当額に切り替わっています。配偶者と父母なら3億3,333万3,333円、配偶者と兄弟姉妹なら3億7,500万円が上限です。残る税額はそれぞれ4,662万2,100円・3,963万7,500円になります。
配偶者だけが相続人の場合は法定相続分が全額なので上限も5億円になり、0円です。上限が広がることと0円になることは別だという点に注意してください。
ありません。人数だけで0円にするには相続人が79人必要で、自宅の土地で0円にするには5億6,500万円分の土地が要りますが、これは財産総額の5億円を超えるため理論上不可能です。
生命保険・死亡退職金・養子縁組をすべて使っても1億424万9,400円が残ります。3億円でも0円は不可能でしたが、5億円ではその差がさらに広がります。
0円にはできませんが、小規模宅地等の特例と生前対策を重ねれば総額1億3,110万円を7,637万9,400円まで下げられます。5億円では「配偶者にいくら渡すか」と「納税資金をどう作るか」で考えます。
配偶者と子2人で母の固有財産がない前提なら、母の取得額1億4,200万円が最も軽く、一次と二次を合わせて1億986万7,600円です。母に全額渡した場合の2億1,765万円と比べて1億778万2,400円の差があります。
子1人なら最小は母1億3,600万円で1億3,372万8,800円です。全額渡した場合との差は1億3,232万1,200円で、子の人数が少ないほど差が大きくなります。
ただし5億円規模では母がすでに固有の財産を持っていることがほとんどで、その場合は二次相続の課税価格が増えるため最適な金額が変わります。母の年齢や健康状態から相次相続控除が効きそうなら、あえて多く渡す判断もあります。
選択肢は4つあります。財産の売却、延納、物納、借入です。まず納税額に対して現金がいくら足りないかを計算してください。自社株が中心の財産構成では、納税額5,705万円に対して現金が2,000万円しかないといった状況が起こります。
売却する場合は申告期限から3年以内なら取得費加算の特例が使え、納めた相続税の一部を取得費に加算できるため売却益にかかる税金が軽くなります。ただし非上場株式は市場で売れません。
延納と物納は申告期限までに申請書を提出しなければ選べません。物納は「延納によっても金銭で納付することが困難」な場合に限られ、いきなり選ぶことはできません。期限を過ぎてから気づいても手遅れになります。
遺産5億円の相続税は、相続人の構成で0円から2億3,160万円まで開きます。同じ家族構成でも、財産の中身と分け方で結果は大きく変わります。
この帯の特徴は2つあります。配偶者の税額軽減の上限がすべての構成で法定相続分相当額に切り替わることと、枠が広がってもなお0円にできないことです。
この記事で扱った内容を整理すると次のとおりです。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。相続税法の改正により取扱いが変更される場合があります。最新の制度については国税庁のウェブサイトまたは相続税の対応実績がある税理士にご確認ください。