


相続税の財産評価を下げるとは、相続財産そのものを減らすのではなく、財産に付ける値段(相続税評価額)を通達で認められた方法によって引き下げることをいいます。財産の量は変わらないまま課税対象だけが小さくなるため、効率のよい相続税対策とされてきました。
ただし、評価を下げられる幅は財産の種類によってまったく異なります。土地は自用地評価から最大8割以上下がる一方、現預金は1円も動きません。どの財産にどれだけ余地があるかを知らないまま手をつけると、効果の小さいところに労力を割くことになります。
もうひとつ見落とされやすいのが、評価減の手法そのものが規制の対象になってきたという事実です。2024年1月から分譲マンションの評価ルールが変わり、令和4年の最高裁判決では路線価による申告が否認されました。
そして令和8年度税制改正の大綱により、2027年1月1日以後の相続からは、亡くなる前5年以内に買った賃貸不動産の評価方法が変わります。「賃貸物件を買えば評価が下がる」という説明は、そのままでは通用しなくなります。
それでも、通達に定められた減額要素そのものを使う手法の多くは今も有効です。問題は、有効なものと封じられたものが混在したまま情報が出回っていることにあります。
この記事では、財産の種類ごとに評価減の余地がどれだけあるかを判定する表から始めて、評価減に効いている3つの規制、手法ごとの可否の線引き、評価減を重ねられる組み合わせ、動産や特殊な財産の評価、そして評価減を主張した申告を否認されないための実務までを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

相続税は、亡くなった時点の財産の価額に対して課税されます。この「価額」は市場での売買価格そのものではなく、国税庁の財産評価基本通達に沿って計算した金額です。
通達による評価額が実際の時価より低くなる財産では、その差額がそのまま課税されない部分になります。この章では、なぜ財産の種類によって時価との開き方が違うのかを整理し、評価を下げられる財産と下げられない財産を判別する軸を示します。
相続税法は財産を「時価」で評価すると定めていますが、時価を1件ずつ鑑定していては申告が成り立ちません。そこで国税庁は財産評価基本通達で、財産の種類ごとに画一的な計算方法を定めています。
この画一的な方法は、納税者間の公平と申告のしやすさを優先して作られています。そのため個別の事情を細かく反映できず、安全側に寄せた水準に設定される傾向があります。
現預金のように金額が一意に決まる財産では、通達で決めようがないため額面がそのまま評価額になります。一方、土地のように売ってみなければ価格が分からない財産では、路線価という控えめな基準が使われます。
評価減の余地とは、この「安全側に寄せた分」のことです。恣意的に値段を下げているのではなく、通達が最初から低めに設定している部分を正しく使い切るという性質のものです。
主な財産について、評価の基準と時価に対しておおよそどの水準になるかを整理すると次のとおりです。
| 財産の種類 | 評価の基準 | 時価に対する水準の目安 | 下げる余地 |
|---|---|---|---|
| 現預金 | 相続開始日の残高(額面) | 100% | なし |
| 上場株式 | 課税時期の最終価格など4つの価額のうち最も低い額 | おおむね100% | 小 |
| 宅地(路線価地域) | 路線価×各種補正率×地積 | 公示価格の約80% | 大 |
| 家屋 | 固定資産税評価額×倍率(1.0) | 建築費の50〜70%程度 | 中 |
| 分譲マンション | 区分所有補正率による補正後の価額 | 市場価格の約60%以上 | 中 |
| 非上場株式 | 会社規模に応じた3方式の組み合わせ | 方式により大きく変動 | 大 |
| 一般動産 | 売買実例価額・精通者意見価格等 | 中古相場相当 | 小 |
| ゴルフ会員権 | 通常の取引価格の70% | 70% | 中 |
表の見方:「時価に対する水準」は、同じ価値のものを市場で売買したときの価格を100としたときの相続税評価額の目安です。数値が小さい財産ほど、持っているだけで課税対象が圧縮されていることになります。
重要ポイント:この水準はあくまで出発点です。土地は路線価の段階ですでに公示価格の約80%で、そこからさらに補正や特例を重ねられます。最終的な水準は大きく変わります。
計算ロジック:家屋の評価額は財産評価基本通達89により固定資産税評価額に別表1の倍率を乗じて求めますが、この倍率は1.0です。つまり固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります。
参照元:国税庁 財産評価基本通達 第3章 家屋及び家屋の上に存する権利
判別の軸は単純で、その財産の価額が「一意に決まるか」「幅があるか」の一点です。幅があるものだけが、下げる方向に動かせます。
| 区分 | 該当する財産 | 動かせる理由・動かせない理由 |
|---|---|---|
| 下げられる | 宅地・家屋・分譲マンション・非上場株式・ゴルフ会員権・書画骨とう品 | 補正率・利用区分・評価方式・鑑定など、価額の決め方に選択の幅がある |
| 条件つきで下げられる | 上場株式・投資信託・公社債 | 4つの価額から最も低い額を選べるが、選択の幅は相場の変動分に限られる |
| 下げられない | 現預金・貸付金・売掛金・未収入金 | 額面または残高で一意に決まり、通達に減額の定めがない |
重要ポイント:「下げられない」に分類される財産でも、非課税枠のある財産に形を変えたり、債務控除を使ったりする道は残ります。評価減が使えないことと、対策が何もないことは別です。
相続税対策は大きく分けて、財産そのものを移す方法と、財産の値段を下げる方法の2つがあります。この2つは着手できる時期も、後から取り消せるかどうかも違います。
生前贈与のように財産を移す方法は、実行してから効果が出るまでに年数がかかります。暦年贈与には相続前7年以内の加算があるため、直前に始めても圧縮効果はほとんど残りません。
これに対して評価減の多くは、相続が起きた後の申告作業でも適用できます。土地の補正や小規模宅地等の特例は、申告期限までに要件を満たして選択すれば効果が出ます。
重要ポイント:相続が既に発生している場合、生前贈与の選択肢は消えていますが、評価減はまだ間に合います。逆に生前であれば両方を組み合わせられるため、順番の設計が必要になります。
相続税の節税手段そのものの一覧と優先順位は、下記の記事で解説しています。


評価減に取り組むとき、最初にすべきなのは手法を覚えることではなく、自分の財産のどこに余地があるかを見極めることです。同じ1億5,000万円の財産でも、構成によって圧縮できる幅は10倍近く違います。
この章では、減額率と難易度と規制の有無を並べた一覧から、自分の財産構成で着手すべき順番を絞り込みます。
主な評価減の手法を、減額の大きい順に並べて整理しました。難易度は、要件の判定と資料の準備にどれだけ手間がかかるかの目安です。
| 手法 | 対象 | 減額率の目安 | 難易度 | 規制 |
|---|---|---|---|---|
| 小規模宅地等の特例(特定居住用) | 自宅の敷地330㎡まで | 80%減 | 中 | なし |
| 小規模宅地等の特例(特定事業用) | 事業用の敷地400㎡まで | 80%減 | 中 | なし |
| 地積規模の大きな宅地の評価 | 三大都市圏500㎡以上ほか | おおむね20〜35%減 | 高 | なし |
| 貸家建付地+貸付事業用の併用 | 賃貸物件の敷地200㎡まで | 合計59〜60.5%減 | 高 | 2027年以降に制限 |
| 小規模宅地等の特例(貸付事業用) | 賃貸物件の敷地200㎡まで | 50%減 | 中 | なし |
| 貸家の評価 | 賃貸中の建物 | 借家権割合分(30%)減 | 低 | 2027年以降に制限 |
| ゴルフ会員権の評価 | 取引相場のある会員権 | 30%減 | 低 | なし |
| 貸家建付地の評価 | 賃貸物件の敷地 | 18〜21%減 | 低 | 2027年以降に制限 |
| 不整形地・間口狭小などの補正 | 形の悪い宅地 | 数%〜30%程度減 | 高 | なし |
| 上場株式の4つの価額の選択 | 上場株式 | 相場変動分(数%程度) | 低 | 負担付贈与等は不可 |
表の見方:減額率は、その手法を適用する前の評価額に対する減少幅です。複数の手法を重ねる場合は単純な足し算にならず、順に掛け合わせた結果になります。
重要ポイント:難易度が「低」の手法は見落とされにくい一方で、効果も限定的です。結果を大きく動かすのは、難易度が中から高の手法を取りこぼさないことです。
計算ロジック:貸家建付地の減額率は「借地権割合×借家権割合×賃貸割合」で決まります。借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%なら18%減、借地権割合70%なら21%減です。
参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
次の順に確認していくと、優先して調べるべき財産が絞り込めます。上から順に見て、最初に該当したところが最も効果の大きい着手先です。
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財産の総額が同じでも、その中身によって圧縮できる幅はまったく違います。1億5,000万円の財産を3タイプに分けて、評価減後にどこまで下がるかを比べます。
| タイプ | 主な内訳 | 評価減後の課税価格 | 圧縮率 |
|---|---|---|---|
| A|不動産中心 | 自宅(土地5,000万・建物1,000万)/賃貸アパート(土地4,000万・建物3,000万)/現預金2,000万 | 8,949万円 | 約40%減 |
| B|自社株中心 | 非上場株式8,000万/自宅(土地3,000万・建物1,000万)/現預金3,000万 | 1億1,400万円 | 24%減 |
| C|金融資産中心 | 現預金9,000万/上場株式4,000万/分譲マンション2,000万 | 1億4,240万円 | 約5%減 |
表の見方:いずれも財産の総額は1億5,000万円で同じですが、評価減後の課税価格には5,000万円以上の開きが出ます。圧縮率は評価減前の総額に対する減少幅です。
重要ポイント:タイプCで圧縮できるのは約5%にとどまります。現預金の割合が高い家庭では、評価減に時間をかけるより非課税枠や生前贈与に切り替えたほうが効果が出ます。
計算ロジック:タイプAは自宅土地に小規模宅地等の特例(80%減)、賃貸土地に貸家建付地評価と貸付事業用の特例、賃貸建物に貸家評価を適用した結果です。借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%で計算しています。
現預金と上場株式が中心の家庭では、評価減で動かせる金額は限られます。この場合、評価を下げる発想から、課税対象そのものを外す発想に切り替えます。
具体的には、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)と死亡退職金の非課税枠が最も確実です。相続人が3人なら、保険と退職金で合計3,000万円まで非課税にできます。
墓地や墓石、仏壇仏具といった祭祀財産も相続税がかかりません。生前に購入しておけば、その分だけ現預金が課税対象から外れます。
注意:祭祀財産でも、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや、商品として所有しているものには相続税がかかります。純金の仏具などは非課税財産として認められない可能性があります。

財産評価の手法は、この数年で立て続けに規制されてきました。2024年のマンション評価改正、令和4年の最高裁判決、そして2027年から始まる5年ルールの3つです。
いずれも「市場価格と相続税評価額の開きが大きすぎる」という同じ問題意識から出ています。この章では3つを時系列で並べ、それぞれがどの手法に効くのかを整理します。
規制の内容と適用開始時期、影響を受ける手法を並べると次のとおりです。
| 規制 | 適用開始 | 対象 | 効く手法 |
|---|---|---|---|
| 居住用の区分所有財産の評価(マンション評価改正) | 令和6年1月1日以後に取得する財産 | 分譲マンションの一室 | 区分マンションの購入による評価圧縮 |
| 令和4年4月19日 最高裁判決 | 判決以降の実務 | 路線価と時価が著しく乖離する不動産 | 相続直前の借入による不動産購入 |
| 貸付用不動産の評価の見直し(5年ルール) | 令和9年(2027年)1月1日以後に相続等により取得する財産 | 課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した貸付用不動産 | 賃貸不動産の購入・新築による評価圧縮 |
表の見方:適用開始の基準日は「相続が起きた日」です。2026年12月31日までに相続が発生した財産には、5年ルールは適用されません。
重要ポイント:3つはいずれも「通達どおりの評価が実態と合わない場合」を狙い撃ちにしています。通達の減額要素そのもの、たとえば不整形地補正や小規模宅地等の特例は規制の対象外です。
令和8年度税制改正の大綱は、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額の乖離を踏まえて、次の見直しを行うとしています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原則 | 被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価する |
| 簡便法 | 課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額で評価することができる |
| 適用時期 | 令和9年(2027年)1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用 |
| 経過措置 | 改正を通達に定める日までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含む)には適用しない |
| 対象外 | 取得から5年を超えている貸付用不動産/対価を伴う取引によらずに取得した不動産(贈与や相続による取得) |
重要ポイント:「取得価額の80%で評価される」という説明が出回っていますが正確ではありません。原則は通常の取引価額での評価で、80%は課税上の弊害がない限り認められる簡便法です。基礎になるのも取得価額そのものではありません。
計算ロジック:1億2,000万円で取得した賃貸物件で地価が変動していない場合、簡便法による評価額は1億2,000万円×80%=9,600万円です。従来の路線価と固定資産税評価額による評価で5,380万円だったとすれば、4,220万円の増加になります。
参照元:財務省 令和8年度税制改正の大綱
自分が対象になるかどうかは、取得の時期と取得の方法で決まります。相続が2026年中に発生すれば、5年以内に買った物件でも現行の評価が使えます。
| ケース | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 2027年以降に相続。賃貸物件を10年前に購入 | 対象外 | 取得から5年を超えている |
| 2027年以降に相続。賃貸物件を3年前に購入 | 対象 | 課税時期前5年以内の対価を伴う取引による取得 |
| 2027年以降に相続。賃貸物件を3年前に親から贈与で取得 | 対象外 | 対価を伴う取引による取得ではない |
| 2027年以降に相続。20年前から所有する土地に3年前にアパートを新築 | 経過措置の確認が必要 | 通達に定める日までの新築で、その土地を同日の5年前から所有していれば適用されない |
| 2026年12月に相続。賃貸物件を3年前に購入 | 対象外 | 令和9年1月1日前の相続 |
| 自宅として使っている不動産 | 対象外 | 貸付用不動産ではない |
重要ポイント:贈与による取得が対象外である点は見落とされやすい部分です。ただし贈与には贈与税と相続前7年以内の加算があるため、これを回避策として使えるかは別に検討が必要です。
賃貸不動産の評価額を下げる仕組みと計算方法、改正後の具体的な対応は、下記の記事で解説しています。

大綱にはもうひとつ、取得時期に関係なく時価評価に統一される類型が定められています。不動産特定共同事業契約または信託受益権に係る金融商品取引契約に基づく権利の目的となっている貸付用不動産です。
いわゆる不動産小口化商品がこれに当たります。少額から不動産に投資でき、相続税評価額が出資額より低くなる点を訴求していた商品です。
注意:この類型は5年以内という制限がなく、何年前に取得したものでも通常の取引価額で評価されます。評価額は事業者が示した適正な処分価格・買取価格等や、適正な売買実例価額、定期報告書等に記載された不動産の価格等を参酌して求めることとされています。
すでに保有している場合、2027年1月1日以後の相続では評価額が出資額に近づきます。相続税の試算をやり直す必要があります。
令和4年4月19日、最高裁は路線価による相続税申告を否認した課税処分を適法と判断しました。相続開始直前に借入金で購入した不動産について、鑑定評価額による課税が認められた事案です。
この処分の根拠は財産評価基本通達の総則6項です。「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定められています。
重要なのは、通達どおりに計算したこと自体が否認理由ではない点です。実質的な税負担の公平に反する事情があるかどうかが判断の分かれ目になります。
重要ポイント:この判決は通常の賃貸経営や、通達に定められた減額要素の適用を否定したものではありません。相続直前の取得・借入による資金調達・短期での売却といった事情が重なった場合に、総則6項が使われるという理解が実務の前提になります。
アパート建築による相続税対策の判断材料と、この判決の詳しい内容は、下記の記事で解説しています。

令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産は、区分所有補正率による補正後の価額で評価します。従来の評価額が市場価格から大きく離れていた分が埋められる仕組みです。
補正の結果、評価額は市場価格のおおむね6割以上の水準になります。タワーマンションを買って評価を圧縮するという手法は、この改正で効果が大幅に縮みました。
重要ポイント:補正後の価額に対して、貸家・貸家建付地の評価減や小規模宅地等の特例を適用することは引き続きできます。改正されたのは評価の出発点であり、減額要素そのものは残っています。
マンションの新しい評価ルールでの計算方法は、下記の記事で解説しています。


規制が3つ重なった結果、評価減の手法は「今も問題なく使えるもの」「条件つきのもの」「実質的に使えなくなったもの」に分かれました。
この線引きを持っていないと、封じられた手法に時間を使うことになります。この章では主な手法を一覧で判定し、有効なものと危ないものそれぞれの共通点を示します。
主な評価減の手法について、3つの規制を踏まえた現在の可否を整理しました。
| 手法 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 小規模宅地等の特例(4類型すべて) | 今も使える | 租税特別措置法の特例であり、3つの規制の対象外 |
| 不整形地・間口狭小・奥行長大などの補正 | 今も使える | 通達に定められた減額要素そのもの |
| 地積規模の大きな宅地の評価 | 今も使える | 同上。面積と地域の要件を満たすかの判定だけが論点 |
| 無道路地・私道・セットバックの評価 | 今も使える | 同上 |
| 利用価値が著しく低下している宅地の10%減 | 今も使える | 同上。騒音や高低差などの現況を立証できるかが論点 |
| 貸宅地・借地権の評価 | 今も使える | 権利関係に基づく評価で、取得時期の制限がない |
| 土地の分筆による評価単位の分割 | 今も使える | 合理的な分割であれば通達の評価単位の考え方に沿う |
| 上場株式の4つの価額の選択 | 今も使える | 負担付贈与や個人間の対価を伴う取引で取得した場合を除く |
| 非上場株式の評価方式の選択 | 今も使える | 会社規模区分に応じた通達の定めに従うもの |
| ゴルフ会員権の70%評価 | 今も使える | 通達の定めどおり |
| 貸家建付地・貸家の評価減 | 条件つき | 取得から5年を超えていれば従来どおり。5年以内の取得は2027年以降の相続で通常の取引価額に |
| アパート・賃貸マンションの新築 | 条件つき | 同上。経過措置に該当するかの確認が必要 |
| 分譲マンションの購入による圧縮 | 条件つき | 区分所有補正率の補正後の価額が出発点になる |
| 不動産鑑定評価による申告 | 条件つき | 路線価より低い鑑定を使う場合は否認リスクがある。逆方向の適用は認められている |
| 相続直前の借入による不動産購入 | もう使えない | 令和4年最高裁判決により総則6項の適用対象 |
| タワーマンションによる大幅な圧縮 | もう使えない | 2024年の評価改正で乖離が埋められた |
| 不動産小口化商品による圧縮 | もう使えない | 取得時期を問わず通常の取引価額で評価 |
表の見方:「今も使える」は3つの規制のいずれの対象にもならない手法です。「条件つき」は要件や時期によって結果が変わるもの、「もう使えない」は規制により効果がほぼ失われたものです。
重要ポイント:減額幅の大きい手法が封じられたわけではありません。最大80%減の小規模宅地等の特例は今も無傷で、規制されたのは購入によって差額を作る手法です。
参照元:国税庁 No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価
【共通点1】通達が最初から用意している減額要素である
不整形地補正や地積規模の大きな宅地の評価は、その土地が実際に使いにくいことへの調整です。国が減額してよいと定めているものを使い切っているだけなので、規制の対象になりません。
【共通点2】財産の形を相続のために変えていない
もともと自宅として住んでいた、もともと事業に使っていた、もともと人に貸していたという実態がある場合、評価減はその実態を反映したものです。相続税を減らすために形を作ったわけではありません。
【共通点3】保有期間が長い
5年ルールも最高裁判決も、取得から相続までの期間の短さを問題にしています。長く持っている財産の評価減は、いずれの規制の射程にも入りません。
この3点を満たしている限り、評価減を主張することに後ろめたさはありません。むしろ適用漏れは納めすぎにつながるため、取りこぼさないことのほうが重要です。
封じられた手法には、はっきりした共通のパターンがあります。事例で見ていきます。
【事例1】高齢になってから借入金で賃貸物件を購入した
90歳を超えてから金融機関の融資で不動産を取得し、路線価と固定資産税評価額による評価と借入金の債務控除を合わせて相続税をゼロと申告したケースで、鑑定評価額による課税が確定しました。
対策:取得の目的が賃貸経営であることを、事業計画や収支の実績で示せる状態にします。相続税の軽減が主目的であることが記録から読み取れる状態を避けます。
【事例2】相続の直後に取得した物件を売却した
相続税の申告で評価減を主張しながら、申告後まもなく市場価格で売却すると、通達による評価が実態と合っていないことを自ら示す結果になります。
対策:売却の予定がある不動産では、評価減の主張を慎重に検討します。売却が決まっているなら、鑑定評価や実際の売買価格との整合を先に確認します。
【事例3】相続の直前に不動産小口化商品を購入した
出資額と相続税評価額の差を狙った購入は、2027年以降の相続では取得時期を問わず通常の取引価額で評価されるため、効果が失われます。
対策:すでに保有している場合は、2027年以降の評価額で相続税を再計算します。新規の購入を評価減の目的で検討するのはやめます。
注意:3つの事例に共通するのは、相続の直前に財産の形を変えて差額を作っている点です。時間の余裕がないところで実行した対策は、規制の側から見えやすくなります。
5年ルールと生前贈与の7年加算を並べると、対策に必要な準備期間が見えてきます。賃貸不動産を評価減の対象にしたいなら、取得から5年を超えて生存している必要があります。
| 対策 | 効果が出るまでの期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 小規模宅地等の特例 | 相続後の申告で適用可能 | 申告期限までに要件を満たして選択すればよい |
| 土地の各種補正 | 相続後の申告で適用可能 | 現況に基づく評価 |
| 賃貸不動産の取得による評価減 | 5年超 | 課税時期前5年以内の取得は通常の取引価額で評価 |
| 暦年贈与による圧縮 | 8年より前から | 死亡前7年以内の贈与は相続財産に加算される |
| 生命保険の非課税枠 | 契約後すぐ | 500万円×法定相続人の数 |
表の見方:上の2つは相続が起きた後でも間に合う対策、下の3つは生前に一定の期間を確保しないと効果が出ない対策です。相続が既に発生している場合は上の2つに集中します。
重要ポイント:賃貸不動産の取得は5年、暦年贈与は8年が目安になります。どちらも70代後半以降に始めると、期間を確保できないまま相続が起きる可能性が高くなります。
いつから何を始めるべきかを年代別・財産規模別に判定する手順は、下記の記事で解説しています。


ひとつの財産に複数の評価減が使えることは珍しくありません。ただし重ねられる組み合わせと重ねられない組み合わせがあり、重ねられる場合でも減額率は単純な足し算になりません。
「18%減と50%減で68%減」という計算は誤りで、実際は59%減です。この章では併用の可否と、重ねたときの本当の減額率を整理します。
実務でよく問題になる組み合わせについて、併用できるかどうかを整理しました。
| 組み合わせ | 可否 | 条件・注意点 |
|---|---|---|
| 貸家建付地 × 小規模宅地等の特例(貸付事業用) | 併用できる | 貸家建付地評価をした後の価額に50%減を適用。限度面積200㎡ |
| 貸家 × 貸家建付地 | 併用できる | 建物と土地は別々の財産。それぞれに減額を適用する |
| 不整形地補正 × 地積規模の大きな宅地の評価 | 併用できる | 路線価に各種画地補正率と規模格差補正率の両方を乗じる |
| 借地権 × 小規模宅地等の特例 | 併用できる | 借地権も宅地等に含まれる。利用状況に応じた類型で判定 |
| 区分所有補正後の価額 × 貸家・貸家建付地 | 併用できる | 補正後の価額を出発点として減額を適用する |
| 特定居住用 × 貸付事業用(小規模宅地等の特例) | 制限つき | 限度面積の調整計算が必要。両方をフルには使えない |
| 特定事業用 × 特定居住用(貸付事業用がない場合) | 併用できる | 合計730㎡まで。この組み合わせだけは調整計算が不要 |
| 路線価評価 × 不動産鑑定評価 | 選択制 | 同じ土地に両方は使えない。どちらかを選ぶ |
| 社宅の敷地 × 貸家建付地 | 併用できない | 社宅は借地借家法の適用がないとされ、自用地として評価する |
表の見方:「併用できる」は順に適用していけるもの、「制限つき」は面積や選択の制約があるもの、「併用できない」はそもそも要件を満たさないものです。
重要ポイント:社宅の敷地は自用地評価になります。従業員に貸しているから貸家建付地だと判断すると、評価を誤ることになります。
複数の評価減を重ねるとき、減額率は足し算ではなく順に掛け合わせた結果になります。自用地評価100の土地で確かめます。
| ステップ | 借地権割合60%の場合 | 借地権割合70%の場合 |
|---|---|---|
| 自用地としての価額 | 100 | 100 |
| 貸家建付地の評価を適用 | 82(18%減) | 79(21%減) |
| 貸付事業用宅地等の特例を適用 | 41(さらに50%減) | 39.5(さらに50%減) |
| 合計の減額率 | 59%減 | 60.5%減 |
| 単純に足し算した場合(誤り) | 68%減 | 71%減 |
表の見方:2段目の評価減は、1段目を適用した後の価額に対してかかります。そのため足し算より必ず小さくなります。
重要ポイント:借地権割合60%の地域では、足し算で見積もると9ポイント分を過大評価します。1億円の土地なら900万円のずれになります。
計算ロジック:貸家建付地の価額は「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」です。借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%なら100-100×0.6×0.3×1.0=82となります。
小規模宅地等の特例で最も間違えやすいのが、貸付事業用宅地等を選ぶときの限度面積の調整です。貸付事業用を選ぶかどうかで、計算式そのものが変わります。
| 選択する宅地 | 限度面積の判定 |
|---|---|
| 特定事業用等(①②)と特定居住用(⑥)のみ(貸付事業用がない場合) | (①+②)≦400㎡、⑥≦330㎡。両方を選ぶ場合は合計730㎡まで |
| 貸付事業用(③④⑤)を含む場合 | (①+②)×200/400 + ⑥×200/330 +(③+④+⑤)≦200㎡ |
計算ロジック:自宅の敷地200㎡に特定居住用を適用すると、200×200/330=121.21㎡を使ったことになります。残る78.78㎡だけが貸付事業用に回せる面積です。
重要ポイント:1㎡あたりの評価額が高い宅地から優先して特例を使うのが原則です。減額率だけを見て自宅を優先すると、結果的に損をする場合があります。
小規模宅地等の特例の4類型の要件と、どの宅地を選ぶべきかの判定は、下記の記事で解説しています。

土地の評価は、利用の単位ごとに区切って行います。ひとつの土地でも、自宅部分と賃貸部分で使い方が違えば別々に評価します。
この評価単位を分筆によって分けると、間口や奥行の条件が変わって評価が下がることがあります。ただし分け方によっては、かえって評価が上がる場合もあります。
注意:不合理な分割と判断されると、分割前の一体の土地として評価されます。道路に接しない土地を作り出すような分け方は認められません。
土地の分筆でどこまで評価額が下がるか、失敗しない分け方は、下記の記事で解説しています。


不動産や株式に比べて金額が小さいため後回しにされがちですが、動産や特殊な財産にも評価の余地があります。とくに家庭用財産は、根拠なく高い金額で申告して納めすぎているケースが少なくありません。
この章では一般動産・ゴルフ会員権・書画骨とう品・金地金・立木について、通達の定めと実務上の判断を整理します。
一般動産の価額は、原則として売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価します。これらが明らかでない動産は、同種同規格の新品の課税時期における小売価額から償却費の額を控除した金額で評価します。
評価の単位は原則として1個または1組ごとです。ただし例外が定められています。
家庭用動産で1個または1組の価額が5万円以下のものは、一括して一世帯ごとに評価することができます。家具や家電を1点ずつ査定する必要はありません。
重要ポイント:実務では家財一式として数十万円程度で評価することが一般的です。中古市場での価格を踏まえずに新品価格で申告すると、納めすぎになります。
参照元:国税庁 財産評価基本通達 第6章 動産 第1節 一般動産
ゴルフ会員権は取引相場の有無で評価方法が分かれます。取引相場があるものは、課税時期における通常の取引価格の70%で評価します。
| 区分 | 評価方法 |
|---|---|
| 取引相場のある会員権 | 課税時期の通常の取引価格×70%。取引価格に含まれない預託金等があれば、返還を受けられる金額等を加算する |
| 株主でなければ会員となれない会員権(取引相場なし) | その会員権に係る株式を財産評価基本通達により評価した金額 |
| 株式と預託金の両方が必要な会員権(取引相場なし) | 株式の価額と預託金等の価額の合計額 |
| 預託金等のみが必要な会員権(取引相場なし) | 返還を受けられる金額等に基づき評価 |
| 株式の所有を必要とせず譲渡もできず、預託金等もなく、単にプレーができるだけのもの | 評価しない |
表の見方:上から順に該当するかを確認します。最下段に当たる会員権は相続財産に計上しません。
重要ポイント:譲渡できずプレー権だけの会員権は評価額ゼロです。会則を確認せずに購入価格で申告すると、払う必要のない相続税を納めることになります。
書画骨とう品の価額は、販売業者が有するもの以外は売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価します。精通者意見価格とは、専門家による鑑定の意見価格です。
【ケース1】鑑定を取ったほうがよい場合
著名な作家の作品や、購入時に高額だった品がある場合です。根拠のないまま購入価格で申告すると過大になりやすく、逆に低く申告すると税務調査で指摘されます。鑑定書があれば、どちらの方向にも説明できます。
【ケース2】鑑定を取らないほうがよい場合
市場価値がほとんどない品を多数持っている場合です。鑑定費用のほうが評価額より高くつきます。家庭用財産に含めて一括で評価するほうが合理的です。
【ケース3】判断が分かれる場合
宝石や貴金属は、購入価格と中古の買取相場が大きく離れます。買取業者の査定書を複数取り、その水準で申告するのが実務的な対応です。
注意:仏壇仏具は非課税財産ですが、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものは相続税がかかります。純金製の仏具などを非課税として申告すると否認される可能性があります。
参照元:国税庁 財産評価基本通達 第6章 第4節 書画骨とう品
金地金や貴金属は、課税時期における業者の買取価格で評価します。売買実例価額が明確に存在するため、評価に幅がほとんどありません。
自動車も同様に売買実例価額で評価します。中古車の査定額が基準になるため、購入価格ではなく相続開始日時点の査定を取ります。
電話加入権の価額は、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価します。取引価格がほぼ消滅しているため、実務では一般動産に含めて評価するのが通例です。
| 財産 | 評価の基準 | 下げる余地 |
|---|---|---|
| 金地金・貴金属 | 課税時期の業者買取価格 | ほぼなし |
| 自動車 | 課税時期の中古車査定額 | 購入価格で申告しないこと |
| 電話加入権 | 売買実例価額・精通者意見価格等 | 家庭用財産に含めて一括評価 |
| 暗号資産 | 課税時期の取引所の取引価格 | ほぼなし |
重要ポイント:これらは相場で一意に決まるため、評価減の対象にはなりません。ただし過大に申告してしまう余地はあるので、購入価格ではなく相続開始日の相場で計算します。
参照元:国税庁 財産評価基本通達 第7章 第7節 電話加入権
山林や森林の立木は、樹種や樹齢、地味級・立木度・地利級といった要素から標準価額を求めて評価します。専門的な判定が必要な分野です。
屋敷内にある果樹や庭木は、庭園設備として評価します。一般家庭の庭木を個別に評価する必要は実務上ほとんどありません。
重要ポイント:山林を相続する場合は、評価方法によって金額が大きく変わります。保安林や特別緑地保全地区内の立木には別途の減額の定めがあるため、指定の有無を必ず確認します。
農地の評価方法と納税猶予の特例は、下記の記事で解説しています。


財産が現預金や上場株式に偏っている家庭では、評価減で動かせる金額はほとんどありません。この場合に必要なのは、評価を下げる発想から課税対象を外す発想への切り替えです。この章では額面から動かせない財産を確認したうえで、代わりに使える手段を整理します。
次の財産は通達に減額の定めがなく、原則として残高や額面がそのまま評価額になります。
| 財産 | 評価額 | 補足 |
|---|---|---|
| 普通預金・当座預金 | 相続開始日の残高 | 既経過利子が少額なら加算不要 |
| 定期預金 | 残高+既経過利子(源泉所得税相当額を控除) | 利子の計算が必要 |
| 現金 | 相続開始日の手元残高 | いわゆるタンス預金も含む |
| 貸付金・売掛金・未収入金 | 元本+既経過利息 | 回収不能が明らかな部分は除ける場合がある |
| 個人向け国債 | 中途換金した場合の価額 | 中途換金調整額を控除 |
重要ポイント:貸付金は例外的に減額できる場合があります。債務者が破産手続開始の決定を受けているなど、回収の見込みがないことが明らかな部分は元本に算入しないことができます。
評価を下げられないなら、そもそも課税対象に入らない形にします。確実性が高いのは次の3つです。
相続人が3人なら、生命保険と死亡退職金で合計3,000万円が非課税になります。現預金3,000万円をこの形に移せば、課税価格がそのまま3,000万円下がります。
計算ロジック:非課税枠は「500万円×法定相続人の数」で計算します。相続放棄をした人がいても、法定相続人の数には含めて計算します。
参照元:国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
生命保険の非課税枠の使い方と契約形態ごとの注意点は、下記の記事で解説しています。

被相続人が残した債務と葬式費用は、課税価格から差し引けます。評価減ではありませんが、課税対象を減らす効果は同じです。
見落とされやすいのは、相続開始後に納付する固定資産税・住民税・所得税です。相続開始時点で納税義務が確定していれば債務控除の対象になります。
注意:香典返しの費用、墓地や墓碑の購入費用、初七日や法事の費用は葬式費用に含まれません。葬儀社への支払いをまとめて計上すると否認されます。
現預金を不動産に変えれば評価が下がるという説明は、いまも各所で見られます。しかし3つの規制を踏まえると、この手法の前提は変わりました。
| 手法 | 現在の位置づけ |
|---|---|
| 賃貸用の不動産を購入する | 取得から5年を超えて生存する必要がある。2027年以降の相続で5年以内なら通常の取引価額で評価 |
| 分譲マンションを購入する | 区分所有補正率により市場価格の6割以上の水準まで補正される |
| 借入金で購入する | 相続直前の実行は総則6項の適用対象になり得る |
| 不動産小口化商品を購入する | 2027年以降は取得時期を問わず通常の取引価額で評価 |
注意:4つのいずれも、相続が近い段階で実行すると効果が出ないか、否認の対象になります。不動産への組み換えは、賃貸経営として成り立つかを先に判断したうえで、時間の余裕があるうちに行うものです。

評価を下げた申告は、税務署から見れば納税額が小さい申告です。否認を避ける鍵は手法の選び方そのものより、なぜその評価になるのかを資料で示せるかどうかにあります。
この章では路線価と鑑定評価のどちらを使うべきかの判断軸、否認された事例の共通点、そして申告の段階で用意しておくべき根拠資料を整理します。
原則は路線価などの通達による評価です。鑑定評価を使うのは、通達による評価が実態と合わない場合に限られます。
| 状況 | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|
| 通達の補正で実態を反映できる | 路線価評価 | 補正率の適用で足りる。鑑定費用がかからず否認リスクも低い |
| 市街地の中の崖地・傾斜地など、補正では反映しきれない | 鑑定評価を検討 | 通達による評価が時価を上回る合理的な理由がある |
| 土壌汚染や埋蔵文化財がある | 鑑定評価を検討 | 対策費用が価格に影響する。見積書などの裏づけを併せて用意する |
| 相続の直前に借入金で取得した | 路線価評価は危険 | 総則6項により通常の取引価額で課税される可能性がある |
| 相続後すぐに売却する予定がある | 売却価額との整合を確認 | 売却価額が評価額を大きく上回ると、評価の妥当性を問われる |
表の見方:上の3つは納税者が評価を下げたい場面、下の2つは通達どおりの評価が否認されうる場面です。総則6項は課税当局が使う規定ですが、納税者が鑑定評価を主張する場面でも判断の枠組みは同じです。
重要ポイント:鑑定評価は費用が数十万円かかるうえ、否認されれば加算税まで含めた負担になります。まず通達の補正で足りるかを確認するのが順番です。
【共通点1】取得から相続までの期間が極端に短い
相続開始の1年から3年ほど前に取得した不動産で問題になっています。取得の目的が賃貸経営なのか相続税の軽減なのかを、期間の短さから推認されます。
対策:取得時の稟議書や事業計画、金融機関とのやりとりを保管し、賃貸経営としての判断だったことを示せる状態にします。
【共通点2】借入金による資金調達と債務控除の組み合わせ
評価の低い不動産を取得しつつ、借入金を債務控除に使うことで課税価格を大きく圧縮する構造です。財産と債務の両面から差額を作っている点が問題視されます。
対策:借入の返済原資が賃料収入から確保できているかを確認します。返済計画が収支に見合っていない借入は、目的を疑われます。
【共通点3】相続後まもない売却
申告で低い評価を主張しながら、その直後に市場価格で売却すると、評価が実態と合っていないことを自ら示すことになります。
対策:売却が決まっている不動産は、売買価額と評価額の差を説明できるかを事前に確認します。
重要ポイント:3つの共通点は、いずれか1つだけで直ちに否認されるものではありません。問題になるのは3つが重なり、かつ評価額と時価の乖離が著しく大きい場合です。
評価減の根拠は、申告の段階で揃えておくのが原則です。調査が始まってから集め始めると、間に合わないものがあります。
重要ポイント:空室の期間と募集状況の資料はとくに重要です。一時的な空室と認められれば賃貸割合に含められますが、募集していなかった期間は認められません。
書面添付制度は、税理士が申告書の作成にあたって計算し整理した事項を書面にして添付する制度です。この書面がある場合、税務署は調査の前に税理士へ意見を述べる機会を与えます。
この段階で疑問が解消すれば、実地の調査に至らずに済むことがあります。評価減を多く使った申告では、あらかじめ根拠を説明しておく意味が大きくなります。
調査で実際に問われるのは、評価減の計算そのものより前提事実です。空室は本当に一時的だったのか、同居の実態はあったのか、といった点が中心になります。
税務調査でどこまで調べられるか、当日の質問と対応は、下記の記事で解説しています。

評価減の適用漏れは、否認より起こりやすい失敗です。適用できたはずの補正や特例を使わずに申告していた場合、更正の請求によって納めすぎた税金を取り戻せます。
請求できる期間は、原則として法定申告期限から5年以内です。すでに申告が終わっていても、この期間内であれば見直しの余地があります。
重要ポイント:見直しで多いのは、不整形地の補正漏れ、地積規模の大きな宅地の適用漏れ、貸家建付地としての評価漏れ、そして小規模宅地等の特例の選択誤りです。土地の評価は担当した税理士によって結果が変わりやすい分野です。
すでに終わった申告の不動産評価を見直して還付を受ける手順は、下記の記事で解説しています。


ここまでの内容を、実際の税額に落として確かめます。同じ1億5,000万円の財産でも、構成によって相続税の総額は472万円から1,352万円まで開きます。
この章では3つの財産構成でシミュレーションを行い、最後に2027年以降の相続で結果がどう変わるかを検算します。
【前提】
配偶者の税額軽減は誰がどれだけ取得するかで変わるため、財産構成の違いだけを比べられるよう、適用前の総額で比較します。評価減を一切適用しない場合の相続税の総額は1,495万円です。
計算ロジック:1億5,000万円-4,800万円=1億200万円を法定相続分で按分し、配偶者5,100万円は税率30%・控除700万円で830万円、子は各2,550万円で332万5,000円ずつ。合計1,495万円です。
自宅と賃貸アパートを持ち、現預金は少なめという構成です。評価減が最も効くタイプになります。
| 財産 | 評価減前 | 適用した評価減 | 評価減後 |
|---|---|---|---|
| 自宅土地 | 5,000万円 | 小規模宅地等の特例(特定居住用・80%減) | 1,000万円 |
| 自宅建物 | 1,000万円 | なし | 1,000万円 |
| 賃貸土地 | 4,000万円 | 貸家建付地(18%減)+貸付事業用の特例(残り面積分) | 2,849万円 |
| 賃貸建物 | 3,000万円 | 貸家(30%減) | 2,100万円 |
| 現預金 | 2,000万円 | なし | 2,000万円 |
| 合計 | 1億5,000万円 | — | 8,949万円 |
| 相続税の総額 | 1,495万円 | — | 472万円 |
表の見方:評価減後の課税価格8,949万円は基礎控除4,800万円を差し引いて4,149万円が課税遺産総額になります。節税額は1,023万円です。
重要ポイント:自宅土地は200㎡なので特定居住用の330㎡の枠に収まりますが、貸付事業用も選ぶため限度面積の調整が入ります。両方をフルには使えません。
計算ロジック:賃貸土地は4,000万円×(1-0.6×0.3×1.0)=3,280万円。自宅200㎡で200×200/330=121.21㎡を使うため、貸付事業用に回せるのは78.78㎡です。
貸付事業用の減額:3,280万円÷300㎡=10.93万円/㎡に78.78㎡と50%を乗じた431万円を減額し、3,280万円-431万円=2,849万円となります。
会社を経営していて、財産の半分以上が自社株という構成です。評価減の余地はありますが、手法が限定されます。
| 財産 | 評価減前 | 適用した評価減 | 評価減後 |
|---|---|---|---|
| 非上場株式 | 8,000万円 | 評価方式の見直しにより15%下がった場合を仮定 | 6,800万円 |
| 自宅土地 | 3,000万円 | 小規模宅地等の特例(特定居住用・80%減) | 600万円 |
| 自宅建物 | 1,000万円 | なし | 1,000万円 |
| 現預金 | 3,000万円 | なし | 3,000万円 |
| 合計 | 1億5,000万円 | — | 1億1,400万円 |
| 相続税の総額 | 1,495万円 | — | 855万円 |
表の見方:節税額は640万円で、パターンAの1,023万円より383万円小さくなります。自社株の評価は会社の状況によって変わるため、ここでは15%下がった場合を仮定した数値です。
重要ポイント:自社株中心の家庭では、評価減より事業承継税制の納税猶予のほうが効果が大きくなる場合があります。評価を下げる前に、猶予制度を使えるかを確認します。
計算ロジック:1億1,400万円-4,800万円=6,600万円が課税遺産総額です。配偶者3,300万円は税率20%・控除200万円で460万円、子は各1,650万円で税率15%・控除50万円により197万5,000円ずつ。合計855万円です。
非上場株式の評価方法と事業承継税制の使い方は、下記の記事で解説しています。

現預金と上場株式が中心で、住まいは分譲マンションという構成です。評価減の余地が最も小さくなります。
| 財産 | 評価減前 | 適用した評価減 | 評価減後 |
|---|---|---|---|
| 現預金 | 9,000万円 | なし | 9,000万円 |
| 上場株式 | 4,000万円 | 4つの価額のうち最も低い額を選択(5%低い場合) | 3,800万円 |
| 分譲マンション | 2,000万円 | 敷地部分700万円に小規模宅地等の特例(80%減) | 1,440万円 |
| 合計 | 1億5,000万円 | — | 1億4,240万円 |
| 相続税の総額 | 1,495万円 | — | 1,352万円 |
表の見方:節税額は143万円にとどまります。パターンAの1,023万円と比べると880万円の差です。
重要ポイント:この構成では、評価減を突き詰めるより生命保険の非課税枠を使うほうが確実です。相続人3人なら1,500万円を非課税にでき、評価減の143万円より大きな効果になります。
3つのパターンを並べると、財産構成の違いがそのまま税額の差になっていることが分かります。
| 項目 | A|不動産中心 | B|自社株中心 | C|金融資産中心 |
|---|---|---|---|
| 評価減前の財産 | 1億5,000万円 | 1億5,000万円 | 1億5,000万円 |
| 評価減後の課税価格 | 8,949万円 | 1億1,400万円 | 1億4,240万円 |
| 相続税の総額 | 472万円 | 855万円 | 1,352万円 |
| 節税額 | 1,023万円 | 640万円 | 143万円 |
次に、パターンAの賃貸アパートを亡くなる前5年以内に1億2,000万円で取得していた場合、2027年以降の相続で何が変わるかを検算します。比較を単純にするため、ここでは貸付事業用の特例は適用しない条件で並べます。
| 項目 | 2026年までの相続 | 2027年以降の相続 |
|---|---|---|
| 賃貸不動産の評価額 | 5,380万円(貸家建付地3,280万円+貸家2,100万円) | 9,600万円(取得価額を基に計算した価額の80%) |
| 課税価格の合計 | 9,380万円 | 1億3,600万円 |
| 課税遺産総額 | 4,580万円 | 8,800万円 |
| 相続税の総額 | 537万円 | 1,240万円 |
表の見方:同じ財産・同じ相続人でも、相続が2027年1月1日以後になるかどうかで相続税の総額が703万円増えます。増えるのは評価額が4,220万円上がるためです。
重要ポイント:この差が生じるのは取得から5年以内の場合だけです。取得から5年を超えていれば、2027年以降でも従来どおり貸家建付地と貸家の評価になります。
計算ロジック:簡便法により1億2,000万円×80%=9,600万円で評価しました。地価が変動していない前提です。
相続税の計算:1億3,600万円-4,800万円=8,800万円を法定相続分で按分し、配偶者4,400万円は税率20%・控除200万円で680万円、子は各2,200万円で280万円ずつ。合計1,240万円です。
注意:2027年以降の評価は原則として通常の取引価額です。80%の簡便法は課税上の弊害がない限り認められるものなので、常に80%で評価できると考えるのは危険です。

財産評価は、担当する税理士によって結果が変わりやすい分野です。同じ土地でも、補正の適用漏れがあれば数百万円単位で相続税が変わります。
しかも評価減の余地が大きい財産は、土地・自社株・特殊財産と分野が分かれており、得意な領域も事務所ごとに違います。この章では、複数の税理士に一括で相談して見積りを比較する意味と、その手順を整理します。
相続税の申告は、税理士なら誰でも同じ結果になる手続きではありません。評価減は「適用できるものを見つけて要件を立証する」作業なので、経験の差がそのまま税額の差になります。
【実績がある税理士が必要な理由】
具体例で見ます。相続財産1億5,000万円、自宅と賃貸アパートを持つパターンAの構成で、A税理士は自宅への小規模宅地等の特例だけを適用して相続税の総額を1,015万円と試算しました。
B税理士は、貸家建付地と貸家の評価減に加え、限度面積の調整計算をして貸付事業用の特例も併用し、472万円と試算しました。同じ財産で543万円の差が出ています。
計算ロジック:A税理士は自宅土地5,000万円に80%減を適用して課税価格1億1,000万円、相続税の総額1,015万円。B税理士は賃貸物件にも評価減を適用して課税価格8,949万円、472万円です。
見積りと初回相談の内容から、実務力は具体的に読み取れます。次の3点を比べます。
判定ポイント1:現地調査を行うかどうか/土地の減額要素は図面だけでは把握しきれません。
→ 現地と役所の調査を工程に明記している事務所のほうが、減額要素の洗い出しに強いと判定できます。
判定ポイント2:検討した評価減の数を示せるか/「小規模宅地が使えます」で終わる事務所と、「貸家建付地・貸付事業用の併用・地積規模の大きな宅地を検討します」と挙げる事務所があります。
→ 後者のほうが取りこぼしが少ないと判定できます。
判定ポイント3:改正への対応を説明できるか/2027年からの5年ルールや区分所有補正率について、自分のケースへの影響を説明できるかを確認します。
→ 改正の適用時期と対象を即答できる事務所のほうが、直近の制度に追随していると判定できます。
この3点は、複数の事務所に同じ質問をすれば必ず差が出ます。1社だけに聞いていると、その回答が標準なのかどうかが分かりません。
評価の判断を1つの事務所に任せきりにすると、次のような結果になり得ます。
【相談しないまま進めるリスク】
更正の請求は法定申告期限から5年以内なら可能ですが、そもそも見落としに気づかなければ請求もできません。申告前に複数の見積りを取っておけば、この取りこぼしは避けられます。
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小規模宅地等の特例です。特定居住用宅地等なら330㎡まで80%減、特定事業用宅地等なら400㎡まで80%減で、他の手法を大きく上回ります。
自宅の敷地を配偶者または同居していた親族が取得するかどうかがまず確認すべき点です。ただし1㎡あたりの評価額が高い宅地から優先して使わないと、効果を取りこぼす場合があります。
取得から5年を超えていれば従来どおり貸家建付地と貸家の評価減が使えます。制限されるのは、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得または新築した貸付用不動産です。
また贈与により取得したものは対価を伴う取引ではないため対象外です。相続が2026年12月31日までに発生した場合も現行の評価が適用されます。
できますが、原則は通達による評価です。市街地の崖地や土壌汚染のある土地など、通達の補正では実態を反映しきれない事情があるときに検討します。
鑑定費用が数十万円かかるうえ否認されるリスクもあるため、まず通達の補正で足りるかを確認するのが順番です。相続直前に借入金で取得した不動産では、逆に路線価による申告が否認される可能性があります。
現預金は残高がそのまま評価額になるため、評価を下げることはできません。この場合は生命保険と死亡退職金の非課税枠(それぞれ500万円×法定相続人の数)に切り替えます。
相続人が3人なら合計3,000万円を非課税にできます。墓地や仏壇仏具などの祭祀財産も非課税ですが、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものには相続税がかかります。
更正の請求により、原則として法定申告期限から5年以内であれば納めすぎた税金を取り戻せます。
実際に多いのは不整形地の補正漏れ、地積規模の大きな宅地の適用漏れ、貸家建付地としての評価漏れ、小規模宅地等の特例の選択誤りです。土地の評価は担当した税理士によって結果が変わりやすいため、別の事務所に見直しを依頼する価値があります。
相続税の財産評価を下げる作業は、手法を数多く知ることよりも、自分の財産のどこに余地があるかを見極めることから始まります。土地は最大8割超まで下がる一方、現預金は1円も動きません。
2024年のマンション評価改正、令和4年の最高裁判決、2027年からの5年ルールという3つの規制で封じられたのは、相続の直前に財産の形を変えて差額を作る手法です。通達に定められた減額要素そのものを使う手法は、今も無傷で残っています。
この記事で扱った内容を整理すると次のとおりです。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年8月時点の法令・通達および令和8年度税制改正の大綱に基づいています。相続税法および財産評価基本通達の改正により取扱いが変更される場合があります。最新の制度については国税庁のウェブサイトまたは相続税の対応実績がある税理士にご確認ください。